点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

「幸福学」について経営コンサルタントとして真面目に考えてみた

幸せな従業員は、不幸せな従業員よりも、創造性が3倍高く、生産性が30%高い。
欠勤率が低く、離職率が低く、組織を助け、外交的で、知的で、創造的で、情緒が安定し、健康的であり、長寿でもある。
(心理学者ソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究)

 

最近書店やネットの記事などで、「幸福学」という学問、考え方を目にすることが増えたと感じる。冒頭に書いた通り、幸せな従業員は「創造性が3倍高く、生産性が30%高い」そうだ。

 

なお今回の記事を書くにあたり、主に以下の書籍をインプットとし、そこに自分自身の考えを交えながらアウトプットしている(書籍の紹介は一番最後に)。

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「幸福」の定義

まず慶應大学システムデザイン・マネジメント研究科の前野教授の言葉を引用し説明する。

幸福学とは読んで字のごとく幸せについての学問であるが、英語では Well-being Study、Happiness Study、Positive Psychology などと呼ばれている。

幸せを英訳すると happy だと思われがちだが、幸せとハッピーとは少しニュアンスが異なる。ハッピーは気分、感情に近く「ワクワクして楽しい気分」というような短いスパンの心の状態を表すのに対し、幸せは、ハッピーな気分から、豊かな時間、いい人生といったような、時間スパンの長い状態までを表す

ミシガン大学レッチェン・スプレイツァー教授とジョージタウン大学クリスティーン・ポラス准教授の、もう少し「仕事」に即した文脈の言葉を借りると、次の通りとなる。

仕事での幸せとは何を意味するのだろうか。「満足」とは違う。これは多少なりともぬるま湯をにわおす言葉だからである。私たちは研究を続け個人や組織が長期的に高いパフォーマンスをあげる要因を探った。そして、「成功している」という、よりよい表現にたどり着いた。

成功している社員は2つの特徴を持つことがわかった。第一の特徴として、彼らは活力のみなぎらせている。生きているという実感と情熱にあふれ、胸を高鳴らせている。第二の特徴は、たゆまぬ学習である。新しい知識や技能を身につけ成長していくのだ

学術サイドだけでなく、実業界から、ユニリーバの取締役人事総務本部長島田由香氏の言葉を紹介する。

ユニリーバでは「幸せ度を高める」という取り組みがあるわけではありません。しかし、「自分らしさを大切に!」ということを常に意識しています。

これからの組織のあり方を考える上で『自律型組織』というものに共感を覚えます。自律とは主体性であり、何も決まっていないことでも自分で考えて取り組むこと。私は、この自律性が幸せとも比例すると考えています。自分で創造しながら主体的に取り組むこと、つまりクリエイションのできる人は、幸福度も高いのではないでしょうか。

そのため、私にとって『目的』はとても大切な言葉です。社内でも初めての上司や部下に必ず聞くことは『あなたの人生の目的な何ですか?』ということ。なぜなら自分の人生の目的と会社のそれが合致していれば、仕事が円滑に進み、パフォーマンスが向上するだけでなく、何より楽しいですから。

いずれも異なる視点から語っているが、根本には似たものを感じる。

いずれも短期的・刹那的な喜びではない。また金銭や地位の獲得といった、他者からの評価によるものでもない。そうでなはく、自己実現や自身の目標といっやより根源的・根本的であり、長期の時間軸で語られるもののように思われる。

そういう意味で、個人的には「Happiness」よりも「Well-being」という言葉の方がしっくりきている。

 

さて、幸福学への理解をもう一段階深めるために、再び前野教授の言葉を引用する。ここまでは端的に言うと短期・長期や表面的・根本的という二項対立論であったが、ここに利己的・利他的という軸を加える。

アメリカ型の幸せな会社と日本型の幸せな会社では、やや異なる傾向があるように思う。アメリカの企業が社員の幸せを考える時、ハピネス、つまりポジティブな感情ないしはヘドニア(欲求充足的幸福)に着目することが多い。一方で、日本の企業はどちらかというと、社員の人生にわたる幸せ、みんなのために働くということといったような、利他的な幸せに着目する傾向がある。

いわば個人主義集団主義かということである。ただしこれに関しては、どちらが良い悪いということではなく、両サイドからの考え方・アプローチがあるということを理解いただきたい。

個人主義的に自己成長ややりがいの達成、自分らしくあることに幸せを感じることも正解であるし、他者を助けることで喜びを感じることもまた正解である。また利他的な幸せは東洋の特徴かといえばそうではなく、孔子の語る「仁」とキリストの語る「愛」は根源は一緒だと思う。

それにいきなり利他的な幸せを考えること自体が間違っているのであって、自分自身を愛せない人は、他人を愛することなどできないのである。キリスト的に言えば「自分を愛するように隣人を愛しなさい」である。

 

なぜ幸福学が着目されているのか

『幸福学×経営学』という書籍のカバーに、端的かつ分かりやすい理由が書かれていた。

かつては、企業が社員を不幸にすることで競争に勝てる時代がありました。

しかしそれはもう限界です。

逆に、これからは、働く人を幸せにできる企業しか生き残れない。

この言葉に尽きるのではないだろうか。

例えば、少し前に化学メーカーのカネカが育休取得から復帰した男性社員に即地方転勤の事例を出して大炎上した出来事があった。

その際、私も考えをブログにまとめて投稿したのだが、現代においては若者中心に考え方が経済が右肩上がりで単一商材だけを作っていればよかった時代から大きく変わってきている。上記言葉を借りれば、「企業が社員を不幸にすることで強制に勝てる時代」は終わったのである。

lightingup.hatenablog.com

 

また別の言葉を組織人事領域を専門とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」の中の人が書いた『エンゲージメント経営』から引用する。

日本では、ある意味で、会社は利益創出のための目的型組織ではなく、社員が同じ価値観を共有する共同体、あたかもムラのように機能していた。ムラ社会的な日本の会社では、社員は一度就職したら集団の秩序に適合するように努力し、その会社で職業人生を全うすることが絶対的な正義なのだ。社員がこうなのだから、会社は社員一人一人の幸せなど真剣には考えてはこなかった。否、考える必要がなかったのである。

時は移ろい、現在多くの会社では、かつてのような共同体的な組織運営が困難になっている。まず、そもそも右肩あがりの成長が止まってしまっている。これまで会社を支えてきた主力事業が成熟期か衰退期に入ってしまい、人手不足の真逆で人員過剰になり、雇用調整の必要にさえ迫られている。

人間、自分が属するコミュニティの変化には敏感なもので、会社の雰囲気がこれまでとは変わってきたと感じれば、このままここで働いていて、幸せに定年退職をも変えることができるのだろうか?と漠とした不安が頭をもたげてくる。ベテランになるほどすぐに会社を辞めようという心持ちにはならないとうだが、問題はこれからの会社を引っ張っていくべき層である、20代と30代の社員層だ。

何も反論できないほどの痛烈な指摘である。

作れば売れたという時代はとっくに終わっている。にも関わらず経営層はかつてと同じかマネジメントを続けている。そして従業員は経営層が思っている以上に敏感に、その危機感を嗅ぎ取っているのである。

 

そういった世の中だからこそ、鶏が先か卵が先かという議論もあるが、従業員のことを考えた経営が着目し始めている。幸福学よりも市民権を得ている言い方だと、この書籍のタイトルであるエンゲージメント経営や、カスタマーエクスペリエンスにあやかったエンプロイーエクスペリエンス、従業員満足度、社内風土改革、さらに言えば働き方改革もこの文脈で語ることができる。

 

しかしこれらの考え方と「幸福学」には1つ大きな違いがある。前野教授の言葉を借りると、

従業員が幸せになることが結果的に会社全体をも幸せにします。

従業員満足度は仕事内容への満足、職場への満足、福利厚生への満足など「部分的な充足」を測る指標であるのに対して、従業員幸福度は、社員としての部分的な満足度だけではなく、人間関係や家庭環境、余暇の楽しみなどをすべて含む、人間としての「人生全般に関わる全体的な充足」を測る指標であるからです。従業員満足度よりも、従業員幸福度の方が生産性に寄与している、という研究結果もあります。

したがって、これも前野教授の言葉ですが、

答えの見つからない世界においては、組織メンバーがそれぞれ多様な工夫や試行錯誤を惜しまないことの方が有効

なのであり、そのため生産性と創造性を高める幸福学が着目されているのだと理解している。

 

どのように従業員の幸福度を高めていくか

2つのアプローチを紹介と、それに関連して私の考えを述べながら、今回の投稿のまとめとしていきたい。

まずは、コーン・フェリーのエンゲージメント経営から。

 

ザ・コンサルティングな分析アプローチ

本書の優れているところは、とてもコンサルチックであるところ。どういうことかというと、社員エンゲージメント調査で会社と従業員の双方向の関係性を明らかにし解決すべき項目を浮き彫りにするとともに、海外先進企業をベンチマークとして、どの領域であれば費用対効果よく伸ばすことができるかというフィージビリティ調査を行い、優先順位をつけて対応策を検討していくというもの。うん、実にコンサルらしいアプローチである。

 

さて、まず前者のエンゲージメント調査であるが、コーン・フェリーは23万人の調査結果から、エンゲージメントの高い会社とそうでない会社における差が大きく現れている項目のリストアップを行なった。その結果は、差が大きい順に以下の通りである。

  1. 顧客に提供する体験的価値への自信
  2. 成果創出に向けた効果的な組織体制
  3. 自社におけるキャリア目標達成の見込み
  4. 生産性を高めるあめの環境整備
  5. やりがいや興味がある仕事を行う機会
  6. 仕事を進めるための十分な人員の確保

本書でも書かれているのだが、エンゲージメントと強い関係性を有している因子の1番が「顧客に提供する体験的価値への自信」であり2番が「成果創出に向けた効果的な組織体制」だということは、大きな驚きである。

直感では自信のキャリアややりがいといったものが最上位にランクインしそうに思えるが、それらは3位と5位であった。

 

そして続く海外先進企業の取り組みとの差分を評価したところ、まず最も差分が少ないのは「成長の機会」「教育・研修」「業績管理」「権限・裁量」といった因子であり、これまた意外な結果。直感的には個人主義色の強い海外企業の方が、社員の成長を意識してそのための機会を充実化させているかと思ったのに。。

反面、差分が大きい、つまり日本企業にとって伸ばす余地が大きいのは「品質・顧客志向」「リソース」「業務プロセス・組織体制」「戦略・方向性」などの戦略論や組織マネジメント論とのこと。

 

この結果が意味していることはとても明快である。

日本の会社は、社員に対して顧客に提供している価値を十分に伝え切れていない。あるいは、顧客目線で見た自社の存在意義が、社員にとっては不明瞭な場合が多いということだ。同時に、十分な成果を上げるための組織体制なり人員が整っていない、そう社員が捉えている。そして、それらの不足感が社員エンゲージメントの低下を招いてしまっている。

一方、「キャリア目標達成の見込み」や「やりがいや興味のある仕事を行う機会」は社員エンゲージメントの高低を大きく左右する因子であるものの、それらのスコアを上げるような打ち手を講じることは難しい、という結論が論理的に導き出せる。

社員が会社に所属することに喜びを得て、熱意を持って働くためには、自社の存在意義を社員に感じさせることが、費用対効果の面からも鍵となりそうだ。

 この結果を、みなさんはどのように受け止めるか、とても興味がある。

まず、組織戦略論という企業にとって極めていく必要性・必然性がとても高い項目を強化すべきという点は誰しもな納得するであろうし、存在意義、つまり最近はやりの言葉で言い換えると「Purpose」を強く打ち出すことも、納得できる。

しかし、キャリアや仕事そのもののような個人に即した項目は、難易度が高いという理由で後回しにしてしまう。ここに関しては残念と感じる人が多いのではないだろうか

そしてさらに言うと、これはフィージビリティ調査の限界なのであるが、私自身としては、このように難しいことに挑戦するからこそ、競合優位性は生まれると考えている。施策の優先順位や Quick Win 目的としては費用対効果の高い施策から着手すればいいと思うが、やはり中長期的な視点で、従業員のキャリア形成を、企業・組織には考えてもらいたい。

 

より「幸せである」ことに着目したアプローチ

 そう考えながら、他の書籍を読み進めると、何回も登場している前野教授と、社員のハピネス向上をミッションとする「CHO」を日本に広めることを目指している Ideal Leaders 株式会社の丹羽真理氏の対談が載っている『パーパス・マネジメント』という書籍で下記のように書かれていた。

丹羽:最近では、生産性を高める要素として「エンゲージメント」にも注目が集まっていますよね。「エンゲージメント」と「幸せ」は、どのように違うのでしょうか。

前野:分析してみると、相関は高いですね。エンゲージメントは仕事に没頭して集中している状態のことなので、やりがいの一種とも言えます。あるいは、人間関係やリソースを整えてやりがいを感じるようにすることと言い換えてもいいでしょう。

丹羽:人間関係やリソースを整えることを含めてエンゲージメントなのだとすれば、従業員満足度よりは包括的な概念ということでしょうか。

前野:そう思います。ただし、「幸せ」と比べると、小さい概念だと思います。幸せには、感謝する姿勢や周りとの信頼関係といった要素も含んでいます。そもそも、幸せというのは、ワクワクやトキメキと同じく、全体的で包括的な心の状態を感性として表す言葉なんです。

つまり、個人にフォーカスするアプローチの難易度が高いとし劣後にしたエンゲージメントアプローチよりも、幸福学のようなより包括的な概念だと述べているのである。希望が持ててきた!

 

この対談している両者、それぞれが幸せになるための因子を発表しているので紹介しようと思う。まずは丹羽氏のIdeal Leaders の考える「仕事における幸せ」を形作る要素から。

  1. Purpose(パーパス=存在意義)
  2. Authenticity(オーセンティシティ=自分らしさ)
  3. Relationship(リレーションシップ=関係性)
  4. Wellness(ウェルネス=心身の健康)

存在意義はコーン・フェリーの結論と一緒であるが、自分らしさや周囲との関係性を挙げている点に注目したい。

 

続けて前野教授が提唱する因子は次の通り。

  1. 「やってみよう!」因子:自己実現と成長
  2. 「ありがとう!」因子 :つながりと感謝
  3. 「なんとかなる!」因子:前向きと楽観
  4. 「ありのままに!」因子:独立と自分らしさ

似たところが多いのに気付くであろうか。「ありのままに!」因子はまさに「Authenticity」であるし、「ありがとう!」因子は「Relationship」だ。「Purpose」が意味するところは、会社の存在意義と個人の存在意義を合致させることであるので、それはつまり自己実現と成長を意味する「やってみよう!」因子と通じる。

 

理論と感情を融合させる 

一方で経営コンサルティングという仕事を行なっている以上、このスローガンだけだと感情的に見え、どうしても頼りなく感じてしまう自分もいる。

しかし暫し考えて、そこはコーン・フェリーのいかにもコンサル的・理論的な考え方と、「幸福学」が勧めるややもすると感情的な考えの合わせ技だなという結論に自分の中では至った。

つまり、トップダウン式の「会社の存在意義」を明確化していくことは従来のコンサルティング手法で行えばよくそれは当然するべきであるが、それだけに止まらず、従業員との対話を通じた「個人の存在意義」を明らかにしていくボトムアップ式の取り組みも行うのである。そのための鍵は、前者は経営層であるのに対し、後者は中間管理職などのリーダー層だ。彼らが部下にと対話しながら動機付けをしなければならないわけなので、必然的にコーチングや共感力などスキルが必要になってくる。つまりオーセンティリーダーシップである。

(と思ったところ、ハーバードビジネスレビューは「オーセンティ・リーダーシップ」に関する書籍も出版しているではないか。なんと準備のいいことだ)

lightingup.hatenablog.com

 

冒頭に利己的・利他的のバランスということを書いたが、人間利己的な充足がなければ他者に目がいかないものである。そういう意味で、どうして自分がその組織で働くのかという存在意識を深掘りすることは不可欠なアプローチであるし、それができれば、会社も従業員に対して仕事内容やキャリアに対する動機付けを行いやすくなるはずだ(それどころか、従業員が自ら意義を見つけ出してくれるはず)。

そして内面的動機付けが喚起された従業員というものは、自然と周囲のため会社のために、つまり利他的に働くようになるのではないか。そうすると、周囲との関係性の中でより働くことへの「幸福度」が高まり、それがまた自分らしさを作り上げていく、という良い循環が生まれていく。

 

1日の8時間から長い場合は十数時間を会社で過ごすわけですから、その時間が幸せでないということは、とても不幸せなことですよね。

これからの時代、そのような純粋な気持ちだけでなく、企業の戦略的手段の一貫として、あるいは企業の存在目的の1つとして、「幸福学」にもっともっと注目が集まるようになることを信じて止みません。

 

追記:ちょっとした続編を書きましたのでこちらもよろしければどうぞ。活発な人が多い組織は幸福度が高いとのこと。

lightingup.hatenablog.com

 

最後に、今回の投稿で参照した書籍は下記の通りです。それぞれ一言レビューでも書こうかと思っていたのですが、もう力尽きました。。。気になる書籍があればAmazonのレビューをご覧ください。

幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える

幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える

 
ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 幸福学 (ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ)

ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 幸福学 (ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ)

 
パーパス・マネジメント

パーパス・マネジメント

 
エンゲージメント経営

エンゲージメント経営

 

 

ではでは。

最強である一方で最も軽視されているフレームワーク「5W1H」:当たり前のことを当たり前にやることは難しい

5W1Hは誰でも聞いたことがあるとがあるだろう。
いつ(When)、誰が(Who)、何を(What)、どこで(Where)、どうして(Wht)、どうやって(How)の頭文字をとったものだ。

 

この基本的すぎるかもしれない、また今更かよと思われるかもしれない5W1Hだが、個人的には仕事をする上での最強のフレームワークだと思っている。

シンプルであり、汎用性が高く、どんなシーンでも使えるフレームワークは他に思いつかない。

 

敢えて弱点を挙げると、5W1Hはどちらかというと網羅性を担保するための考え方なので、深さの議論に向かない点。ただしこれは How を細かく定義することでカバーできる。

もう一つの弱点は、5W1Hは6つの要素から成るが、「6つ」が多すぎる、ということだ。

 

これは冗談ではなく真面目な話である。

コンサルタントがなぜ「3つのポイント」にこだわるかと言うと、人は多くのことを覚えられないからだ。3つ、または4つが限界だろう。

そう考えると、マーケターと称する人たちがよく使うのは3Cだったり4PだったりSWOTだったりの4つまでの分類が大半で、一方7Sを使っているシーンはほぼ見ない。BCGのPPMが一世を風靡したのは4マスがシンプルで分かりやすかったからであって、後追いしたマッキンゼーの9マスの考え方は流行らなかった。アクセンチュアが提唱したシックスバブルズの考え方に至っては知っている人はほとんどいないだろう。「7つの習慣」だって読んだことのある人はかなりたくさんいると思うが、7つすべての習慣を説明することができる人は少数だろう(そして使いこなせている人はごくごく少数だと思う)。

 

以上の例の通り、人が使いこなせるのはせいぜい3つか4つの考え方であって、そのため5W1Hは明確に意識して使わない限り、どれかが抜け落ちてしまう。「5W1Hを大事にしましょう」「あならは5W1Hを意識して仕事をできていますか?」と聞いて「そんな基本的なことを何をいまさら」と5W1Hを軽んじる人は、5W1Hを使いこなせていないだけだ。これは断言できる

使いこなすとは、知識だけでなく、胆識・胆力を持って周囲を巻き込み現実を変革していくということである。 

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例えば先週一週間に会社で行われた会議を思い出して欲しい。

呼ばれて参加したものの、会議の目的が分からず1時間、場合によっては数時間を無駄にしたことはなかっただろうか?

数字が足りていない報告があったものの、誰も原因や、今後いつまでに何をするのかの改善策を聞くようなことがなく、淡々と会議が進んでいくことはなかっただろうか?

次アクションは決まったものの、誰がいつまでにやるかが曖昧になっていたことはなかっただろうか?

議論はしたものの結論は出ず、かといって次回までに何をするのかも明確になっておらず、「きっと来週も引き続き同じ不毛な議論になるのだろな」と思ったことはなかっただろうか?

新しい方針が打ち出されたものの具体的な手順は何もなくただの大号令で終わり、「結局いつも通り何も変わらないんだろうな」と思ったことはなかっただろうか?

 

物事を伝える側に5W1Hの意識が欠けているからこそ、このような決まらない意味の無い会議は生まれるのである。

そして厳しく言えば、参加者から主催者や発表者に対しての指摘がないからこそ、意味の無い会議は意味の無い会議のまま変わらないのである。

 

 

抜け落ちやすい項目を勝手にランキングすると、一位は群を抜いて「目的」だろう
目的は何よりも大事なのに、どうしてここまで抜け落ちるのか。会議に限った話ではない。会社や事業部の方針から日々行われる業務に至るまで、目的が明確ではない業務のなんと多いことか。

 

第二位は「誰が行うか」ではないかと思う。責任の所在とも言い換えられる
職業がらコンサルタントの立場としてクライアント企業の R&R(Roles & Responsibilities;役割と責任)を再定義することも多いのですが、これがどうしてなかなか、ヒアリングしていくと不明瞭なケースの多いことか。

 

第三位は「いつまでに」、つまり期限だ
厳密にはこれは抜け落ちている、忘れ去られているというよりも、重要視されていない・守られていないことが多いという文脈で取り上げたい。期限は決まっているものの、誰もそれを守らない。それどころか、期限を守らなくても何もお咎めなし。あってないようなものである。

 

つまるところ、5W1Hの徹底」とは「当たり前のことを当たり前にやること」であり、5W1Hの徹底が意外と難しい」ということは「当たり前のことを当たり前にやることがいかに難しいことか」ということを物語っているのだと考える。

 

元気のない企業、業績の悪い企業はこういう当たり前のことが当たり前に行われていない。多くの人がなぁなぁに自分の業務だけをこなしているだけ。一方、成長企業、業績の良い企業とは、社内で喧々諤々な議論が飛び交っているものである。なぜなら、当たり前のことを当たり前にやるのは難しいので、確認や相談、支持出しなどが必要だからである。

 

個人の仕事にフォーカスしても、5W1Hを徹底するだけで、間違いなく個人の業績・成果・評価は向上するはずである。個人の勝手な妄想ではあるが、5W1Hを徹底するだけで、その組織の上位20%の人材にはなれるのではないかと思う。転職して自分の市場価値や給与を高めたいと思っている人は、まず今いる会社で5W1Hを徹底して社内での価値を高めることが、その後の転職時の市場価値を高めることに繋がると思う。

 

最後に、5W1Hを使いこなすための私なりの考えを紹介したい。
個人的には、多くは考えずに、まずは「目的」にフォーカスすることこそ大事だと思う。

目の前の仕事は何のために行なっているのか。

これを突き詰めて考えれば、自ずとどうやればうまくいくのか、何をいつまでにやらなければ行けないのか、誰に頼まなければならないのか、と他の視点が持てるようになり、そうやって考えを列挙した後に5W1Hに沿ってまとめて抜け漏れがないかをチェックすれば完璧である。

 

とはいいつつ、自分自身でも「目的」を見失う、忘れてしまうことはありますけどね。なかなか難しいものです。

 
ではでは。

 

外資系コンサルタントあるあるネタ10選

  1. 社内の飲み会に時間通りに行くと誰もいない
  2. 飲み会の日の方がむしろ早く帰れる(二次会に行かない場合)
  3. MECEという言葉はちょっと恥ずかしいからあまり使わない
  4. どんな時間でも誰かしらはスカイプオンライン
  5. 将来を決めきらずモラトリアムの延長でファーム入りした人が結構多い
  6. プロジェクト内でマニアックな Excel のショートカットを教えあう
  7. ポイントは3つと宣言し、話しながら3つ目を考える
  8. なんでもマトリックスで整理し始める
  9. ミーティングはホワイトボードに何か書かないと気が落ち着かない
  10. プライベートでも頼まれてもないのに課題解決しようとして女性からひんしゅくを買う

 

ブログ開設50個目記念でネタ投稿。

独断と偏見にもとづくコンサルあるあるでした!

 

ではでは。

「顧客視点で語っている」と相手に思わせる小手先のテクニック(でも意外と本質論かも)

「顧客視点に立て」「クライアントの立場で考えろ」

 

よく聞く言葉ですね。営業やマーケターであれば提案時に口酸っぱく言われるでしょうし、コンサルタントもクライアントに納得して動いてもらわなければ現実は何も変わらないので、こちらからの視点だけでなくクライアント視点で考えることはとても大事なことだ。
しかし、せっかくクライアント視点で考えてても、説明(資料やプレゼンテーション・コミュニケーション)で伝わなければ意味がない。そこで、小手先かもしれないが「クライアント視点で語っている」と相手に「思わせる」テクニックを紹介したい。 

なお本質的には、あまりにも酷いプレゼンテーションでもないかぎり、相手企業のことを考えて考え抜いて書いた紙や紡ぎだした言葉は相手に響くはずなので、こういったテクニックに頼る必要はないと考える。ただ一方で、あえてハードモードを選ぶ必然性はないし、より容易に伝わるであればそれに越したことはないので、クライアント視点で考える能力に長けている方にも、ぜひともお目汚しいただきたい。

 

クライアントの言葉を借りる

「クライアントの言葉を借りる」ことがポイントになる。私もコンサルティングのお師匠さんにから、「自分の言葉ではなく、クライアントの言葉で語れ」とよく指導されたものだ。

さて、クライアントの言葉を借りる方法としては、具体的には次の3種類の「言葉」を借りると効果的だと私は考えている。 

  • クライアント企業の言葉を借りる
  • クライアント社員の言葉を借りる
  • クライアント製品の言葉を借りる

 

クライアント企業の言葉を借りる

クライアントのHPやIR情報をよく読めば、繰り返し登場する言葉を見つけられるはずだ。例えば、「オペレーショナルエクセレンス」や「進化」「次世代」「オープンイノベーション」のような抽象度の高い言葉から、「3年で3割削減」「業界首位奪還」など分かりやすい目標など、内容は様々である。
そのような言葉は社内でも繰り返し使われているため、そのワードを資料なり、自分の話す言葉に盛り込むと、クライアントのことを「考えている」と思ってもらえる可能性が高くなる。その際、100% 正しくトレースすることをおすすめする。つまり、「イノベーティブ」という言葉が多く登場するのであればその通りの言葉を使い、自分勝手に「イノベーション」とか「革新的」などと言い換えないことが肝要である。

 

クライアント社員の言葉を借りる

別名、虎の威を借る狐。
社員さんがよく話す言葉を借りて使うと、社内ことを「分かっている」と思ってもらえる可能性が高くなる。その際、偉い人の言葉を利用できるとよりインパクトは大きくなる。そして、引用元を合わせて話すとさらに効果が高まる。例えば「常務の佐藤さんがよく『XXX』と仰られていますが、今回みなさんと一緒に取り組んでいるこのプロジェクトの目的もその考えと合致しており・・・」といった具合である。

なおちょっとした Tips になるが、上記の例の「みなさんと一緒に」という言葉選びもまた、相対するのではなく同じ方向を向いているという一体感を出すための小手先テクニック。
(上記の例に関してさらに言うと、本当は目的と役員の考えが完全に一致していない場合でも、このように話すとオーディエンスに「そうか合致しているのか」と思ってもらえる、、、可能性が高まる。これは完全にその場しのぎのテクニックだが・・・)

 

クライアント製品の言葉を借りる

B2B, B2C 問わず、製品には何かしらのキャッチコピーがついていることが多い。製品に関するキーワードは部署・役職問わず浸透していることが多いので、製品の言葉を借りると会社・製品に「興味を持ってくれているな」と思ってもらえる可能性が高くなる。サッポロビールの採用面接で、面接中に黙りこくって最後に「男は黙ってサッポロビール」と一言喋り内定をもらったという都市伝説の通りである。

行動を改めると、考え方も変わってくる

以上、小手先テクニックと蔑みながらまとめてみたが、馬鹿にできない面もある
嘘でもいい、その場しのぎでも構わないので、クライアントの言葉を借りて資料作成や説明を重ねると、クライアント視点が徐々に身についてくるのではないかと考える。

なぜなら、まずクライアントの言葉を借りるにはそもそもクライアントを知らなければならない。クライアントを知らなければそもそも借りる言葉が思いつかないからだ。
次に、クライアントの言葉を借りると、高確率で顧客の反応からより具体的なフィードバック(時には反論かもしれない)がもらえると思う。そうすると深いディスカッションに繋がり初期案がブラッシュアップできるとともに、その過程でクライアント視点の考え方を育むことができる。
最後に、資料やトーク内容にクライアントの言葉を盛り込むことをし続けると、その行動が習慣化し、クライアント用のアウトプット作成時だけでなく、「考える」段階からクライアントの言葉を意識できるようになると思う。

 

これは、まさにクライアント視点で物事を考えている、と言えるのではないだろうか?

 

「顧客視点に立て」「クライアントの立場で考えろ」という命題は非常に抽象度が高くそれだけでは具体的な施策に落ちないが、上記テクニックのように、具体的なアクションの積み上げによって考え方を変えていくということは、効果的なアプローチだと思う。

少し視点を変えてKPIマネジメントの文脈で言えば、「顧客視点に立つ」など結果的に得られる『結果指標(または遅行指標)』であるのに対し、「資料にクライアントの言葉をX個盛り込む」などは測定可能・自分自身でコントロール可能な『先行指標』だと言える。

小手先テクニックとして書き始めたが、意外と本質的な、クライアント視点に立つための効果的なアプローチかもしれないなとも思えてきた。

 

ではでは。

 

部下の育成と仕事の成果を両立させる仕事依頼術

先日紹介した成長を加速させるために学びを「質と量の面積」で考えるの思考法がなかなか評判が良かったようなので、その考え方が書かれていた『BCGの特訓』という書籍からもう1つ、自分自身の仕事に役立った考え方・仕事術を紹介しようと思う。それは、「育成」と「成果」は両立するという考え方とそのための方法論だ。

なおこの考え方は、先輩社員や上位者だけでなく、仕事を受ける若手にも「賢い仕事の受け方」ができるようになるための助けになるはずなので、ぜひ知っておいてもらいたい。

 

 ※学びを「質と量の面積」で考えるの思考法はこちら

lightingup.hatenablog.com

 

はじめて下位スタッフを任された時の話

まずは自分自身の話から。

はじめて下位スタッフ(しかも新卒&ファーストプロジェクト)が自分の下についた時、正直、かなり大変だったことを覚えている。

もちろん納期と品質を保った仕事をしなければならない。かといって新卒君を「ただの作業者」にしてしまうと成長機会も少なくなってしまうし、そのような人の使い方は自分の信条と異なる。
そのため、極力考えるフェーズも一緒に手取り足取り取り組み、ある程度走り始めたらホウレンソウは行いつつも自主性に任せる、というスタイルで臨もうとした。

 

が、なかなか現実はうまくいかないもので。

結果として起こったことは、僕自身の自分の時間を大量に取られ、一方で自分のタスクは当然これまで通りあるので、毎週末出勤で自分の仕事の借金を返済するという日々
またこれはある程度仕方がないことかもしれないが、品質への拘りというか、完了基準を満たしていない資料が出てくることが多く、その資料を自分で手直しするならまだしも、データの信ぴょう性も怪しいため結局イチから資料や計算結果を見直すという、人は増えたのに自分の負担は増えるばかりという事態に陥ってしまった。

もちろんもっとスマートに新人育成をこなせる人もいると思うが、僕のような経験の持ち主も少なくないのではないだろうか。

 

任せる仕事の粒度でコントロールする

そんな中、本書で書かれていたことを思い出しで試してみたところ、だいぶ楽に回るようになった。その教えとは次の通りだ。

効果的な育成に向けては、本人の努力を再断言引き出していく(実施に最大限引き出すには、さらにその少し上を目指す必要があるが)ことが重要だ。

そのためには、本人の実力にあった難易度の業務を与えることを意識しながら、仕事を任せていかなければならない。ただ、それには、個々の業務の難易度を的確に把握することと、本人の実力を把握することの両方が必要だ。どちらが欠けてもうまくできない。

なかでも、業務の難易度を把握するのは、それほど簡単なことではない。特に、自分がメンバーだった時代に仕事が "できる人" だったというマネージャーは、難易度が適切に把握できない傾向がある。どんな業務でも、人よりうまくできてしまい、"簡単" という分類になってしまうからだ。

これは頭では難易度に応じてタスクの割り振りをしなければいけないと分かっていたのですが、確かに書かれている通りなかなか難しい。

もっとも僕の場合は、"できる人" という要素は多少はあったかもしれないが、それ以上に "気合とガッツで深夜まで頑張る人" であったのも大きかった。それを下につくスタッフに期待しても強要してもいけないと理解しつつも、1日を8時間ではなく12~16時間ぐらいで考えてタスク設計していたのが失敗の原因だったと思う(もちろんオーバー分はスタッフにおしつけるのではなく、こちらで巻き取ってリカバリする前提でのタスク設計)。

 

また、1つのタスクをどう線引き、分解して依頼するかで、全部任せるか全部巻き取るかというタスク分解しかはじめはできていなかったことも難しく感じる要因だと思う。つまり、難しい仕事はこちらで担当し、簡単そうに見える仕事は(出だしは手伝うが)すべて新人に任せるという方法だが、ただしそれは上記の通りなかなかうまく回らない結果となってしまっていた。

そこに対する答えが、本書に明確に書かれていてたので紹介したい。

業務を任せる際に、次のように業務を「分解」するという発想を持つと、業務の難易度をコントロールできるようになる。

  1. 論点で与える:与えるのは "問い" のみ。どんな仮説を立てるか、仮説をどう検証するかも含めて本人に考えさせる
  2. 仮説で与える:問いと仮説は与えて、検証の部分だけを本人にやらせる
  3. タスクで与える:問いに対する仮説を立て、検証するためにはこうした作業が必要だ、ということろまでを与え、「〇〇を立証するためのデータを集めて」などタスクのレベルで任せる
  4. 作業で与える:「このデータを、このように調べて、こういうフォーマットで整理して」という作業レベルまで落とし込んで指示する

これは、かなり目から鱗の教えだと思う。

1つの仕事でも難易度が低かったり、あとからリカバリする時間が十分にあればチャレンジとして論点設定から任せればいい。難しい仕事はこちらでタスクレベルまで仕上げてからそのあとを任せればいい。そうすることで、こちらはこちらですべき仕事に集中できるし、また「作業だけ」与えているわけではないので、下位スタッフにも十分な成長機会を与えることができる

この考えを取り入れてからは、下位スタッフへの仕事の割り振り方や、場合によっては仕事の巻き取り方もうまくなり、時間でカバーする働き方も少し改善に繋がったし、品質・納期を担保しながら若手の成長を促すこともできたと感じている。
なお社内から若手の育成者の適任者として見られているのかどうかは分からないが、それ以降なぜか新卒を受け持つことが多く、毎回この考え方を実践しながらうまくプロジェクトデリバリーを行えているので、これは再現性のある考え方だと思っている。

 

因みにこの話は平たくいってしまえばバランス感覚なのだろうが、こういった粒度を細かく見て分解することは意識しないとできないこと。改めて良書というか、BCGの人が書いた本だなと感じたので、興味のある方は是非手に取ってみてはいかがだろうか。 

BCGの特訓 成長し続ける人材を生む徒弟制 (日経ビジネス人文庫)
 

 

なお同じ若手・新卒ネタでこちらもオススメなので良ければご一読ください。

lightingup.hatenablog.com

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こちらは僕の新卒時代の回顧録

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ではでは。

渋沢栄一と「論語と算盤」:論語で世の中を変えていきたい

少し前に、お札の肖像画が変更になるニュースが流れましたね。

中には「渋沢栄一って誰?福沢諭吉の方が有名じゃないの?」と言っている人もいたようですが、そこは因果関係が逆で、ロジカルに考えると一万円札の肖像画だったから福沢諭吉の認知度が高いのではないかと思っています。

※ロジカルに関しての投稿はこちら

lightingup.hatenablog.com

 

福沢諭吉にしても、学問のすすめをちゃんと読んだことのある人はどれだけいるのでしょうか。恥ずかしながら、僕は福沢諭吉の書物を読んだことはないです。

一方で、渋沢栄一の書物でしたら、現代語訳版や解説付きではありますが、本棚を眺めると何冊か読んだことがありました。

例えばこれらです。

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

 
渋沢栄一「論語」の読み方

渋沢栄一「論語」の読み方

 

 

特に「論語と算盤」は有名ですね。タイトルは聞いたことあるという方も多いのではないでしょうか。

 

渋沢栄一とは?論語と算盤とは?

明治から大正にかけて活躍した実業家。明治6年に大蔵省を辞めて実業界に転身し日本の経済発展に尽力し、その生涯で設立や運営に関わった企業数は500を超えると言われ「日本資本主義の父」とも呼ばれています

また渋沢栄一私利私欲ではなく公益を追求する「道徳」と、利益を求める「経済」とを事業において両立させることを強く考えておいて、それを自身のキャリアの中でも実践してきました。その結果が、「日本資本主義の父」と呼ばれるほどの成果に繋がったのだと僕は考えます。

そしてその教えが書かれた書籍こそが、論語と算盤です。

 

では少しその中身を見ていきましょう。

 

道徳と経済の両立とは?

論語と算盤(現代語訳版)には次の通りはっきりと書かれています。

私は日頃の経験を通じて、「論語と算盤とは一致すべきもの」という持論を持っている。講師が懸命に道徳を教えていた際、彼は経済についてもかなり注意を払っていたと思う。これは論語のあちこちに見られる。国を動かす政治家には政務費がいるのはもちろん、一般人も衣食住の費用はかかり、金銭と無関係ではいられない。また国を治めて国民の暮らしを安定させるには道徳が必要であるから、経済と道徳を調和させなくてはならないのである。

だから私は、一人の実業家として、経済と道徳を一致させようとしている。そのため、「つねに論語と算盤の調和が大事だ」とわかりやすく説明し、一般の人々に注意を促している。 

またもっと実践的な書き方としては、

道徳を論じている書物と商才とは何の関係もないようだが、商才というものはもともと道徳を基盤としているものだ。道徳から外れたり、嘘やうわべだけの軽薄な才覚は、いわゆる小才子や小利口ではあっても、決して本当の商才ではない。したがって、商才は道徳と一体であることが望ましい。

 あるいは、

仕事を進めたい、事業を発展さえたいという欲望は人間に常に持っておくべきだ。しかしその即某は道理によって制御するようにしたい。ここで言う道理とは、仁・義・徳のことで、この三つを含むものだ。この道理と欲望とが表裏一体となっていなければ、中国の宋が衰退したようなことになりかねない。また、欲望もそれが道徳に反しているようなら、どんな展開になろうとも他人のものをすべて奪わないと気が済まなくなってしまう。結局、不幸に陥ってしまうだけだろう。

とも書いてあり、このように何度も何度も繰り返し道徳と経済を一致させることを教えといています。そう、ポイントは「一致」です。ある時は論語を読み、ある時は算盤を弾く、ではありません。片方の手に論語、もう片方の手に算盤。これが、「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一が目指すスタイルなのです。

 

論語は極めて実践的な書物

論語には、自分のあり方を正しく整え、人と交わる際の日常の教えが説かれています。そのため極めて実践的な書物でして、そのため渋沢栄一もビジネスの原則に活用したのです。

しかし学生時代の国語の教科書で「子曰く・・・」と読んだ記憶からだけだと、なかなか論語とビジネスとの繋がりを思い描けないかもしれません。むしろ、論語はビジネスの対極にあるのでは?と感じる方もおられるでしょう。

このことに関しては、論語と算盤の中には次のように書かれています。

論語の中に「金と地位は誰だって欲しいものだ。だが、正しい方法で得たものでなければ身につかない。貧乏で惨めなのは誰だって嫌だ。しかしそれすらも正しい方法でなければ、なかなか貧乏で惨めにはならないものだ」というくだりがある。この言葉はいかにも金や地位を軽く見ているようなことろがある。けれども、これはある一面だけ取り上げて言っているのであって、よく考えてみれば、金や地位をさげずんだところは一つもない、この言葉に込められた本当の意味とは、金や地位に溺れる者を諌めているだけだ。

この通り、不正な方法で富を得ることに反対しているわけであり、正しい方法で得た富や金銭を蔑む文章は論語の中には書かれていないのです。

そうしてよくよく論語を読んでいくと、まったく説教くさいとか、古臭いとか、そんなことはないのです。むしろ、日々の仕事や生活に役立つ知恵がふんだんに盛り込まれており、現代風に言えば最高のライフハッカーの教えなのです。

具体的な例として、論語と算盤の一説を引用します。

客観的人生論と主観的人生論の二つのうち、実際、私がどちらがいいと思っているかは明白だ。私は客観的人生論の側にたち、主観的人生論を排除するのだ。孔子の教えにも、「仁者は自分が出世したいと思ったら、まず他人を立てる。自分がやりたいと思ったら、まず他人にそれをやらせる」とある。まさに世の中に対しても、人生に対してもこうでなくてはならないと思う。これこそが孔子が世の中を渡るうえでの覚悟なのである。私もまた人生の意義はこうあるべきだと思う。

なんという具体的な処世術ではないでしょうか!

 

このように論語には現代の私たちが学ぶべき教えがたくさん、たくさん書かれています。僕もまた論語に学ぶようにしていまして、せっかくなのでお気に入りのフレーズを1つ紹介します。

人の己を知らざるを憂えず、人を知らざるを憂うなり(不患人之不己知 患不知人也)

意味は、他人が自分のことをわかってくれないと嘆くものではない。そうではなく、自分が相手を理解しようとしていないことを諌めなければならない、というものです。

 

論語現代日本は救われるのではないか

個人的には、一万円札の絵柄が変わる数年後に「論語ブーム」到来するのではないかと思っています。そしてそのブームは、チャンスです

現代の問題だらけの日本社会。経営コンサルタントとしてこういうことを言うのはおかしいかもしれませんが、論語はそれを立て直す鍵になると思っています。

次もまた論語と算盤からの引用ですが、まず我々の道徳心

国民のよりどころになる道徳上の規律がしっかりと確立されていて、人がそれを信じて社会に独り立ちしているという状況だったら、人格は自ずから形成されるものだ。社会全体が、ただ流れにまかせて私利私欲に走るというようなことはないわけである。

次に、労使関係。

資本家は王道をもとに労働者と向き合い、労働者もまた王道をもとに資本家と相対するということだ。両者が取り組んでいる事業の利害は、両者に共通しているのだ。そこを理解してつねにお互いを思いやるようにしたいものだ。

私たち国民全員が地位役職や政治的思想の右左関係なく、正しく考え正しく生きるようになれば、自ずと社会はよくなっていくと思いますし、少なくともそれぞれがそれぞれのポジションからでしか主張を行なっておらず遅々として良い方向に進んでいないように見える政治や、一部の人たちの利益にしかならないような経済は変わっていくのではないでしょうか。

 

そういう思いのもと、これからちょくちょく論語を紹介する記事も書いていこうと思っています!

ではでは。

 

 

なおこのような道徳心では、僕は安岡正篤という大哲人を心の師として仰いでいます。安岡正篤先生の言葉を紹介した記事もありますのでよければ合わせてご覧ください。
これらも、まったくもって古臭い言葉ではなく、実践的な教えです。

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新人・若手ビジネスパーソン必見!「成長」のためには学びの「面積」を広げよう

成長のためには「バッターボックスに立て!」「打席数×打率だ!」という意見をよく聞きますね。みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

余談ですが、この手の例えは多くの場合野球ですよね。ここ数年では世の中の人気はサッカーが野球を逆転したという人もいますが、この手の比喩表現にサッカーが使われることが少ないということから、いまだに野球で例えられた考え方はもしかして時代遅れなのでは?とも思えてしまいます。

 

そして実際、個人的にはこの考え、片手落ちだと考えています。

バッターボックスに立ってバットを振っているだけでよかったのは、野球人気絶頂期の、かつての右肩上がりの成長時代。モノを大量生産していれば売れていた時代の名残だと感じます。 

このご時世では、もちろんバッターボックスに立つことは大事ですが、それだけだとダメです。やみくもにバットを振るだけでは適切な力は身に付きません。

 

学びの「面積」を広げよう

そう思っていたところ、戦略系コンサルティングファームボストンコンサルティンググループ(BCG)のパートナー2名により書かれた人材育成の関する書籍の中に、面白い表現を見つけました。

それは 「時間の量」×「時間の質」で考えて、その掛け算の面積を大きくしていくべき、という考えです。

 

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本書では、成長の「面積」を増やすためには以下の4点が大事だと説明しています。

  1. どんな場面でも「学ぶ」スイッチオンの時間を長くする(時間へのアプローチ)
  2. 良い手本を「観る」(質へのアプローチ)
  3. 自分の行動を「因数分解」する、行動を「リバースエンジニアリング」する(質へのアプローチ)
  4. 高速PDCAで実践の打席数を増やす(質へのアプローチ) 

余談ですが、外資系〇〇が教える~とい書籍は How To だけを教えるだけのただのスキル本が多い中、本書は骨太な成長方針が書いてありとてもお勧めです。 

BCGの特訓 成長し続ける人材を生む徒弟制 (日経ビジネス人文庫)
 

 

成長機会を見つけられるかどうかは本人の心掛け次第

さて、この質と量の掛け算であるところの学びの面積を増やす、そのためにアンテナを広く張り成長機会を逃さないようにするという考えは非常に同意できます。

ではこの考えをさらに一歩踏み込んで考えてみましょう。

4つの大事な点ですが、この中でどれが一番大事かというと、表面的にはまずは1のスイッチオンの時間を長くすること、しかしより根本的にはスイッチオンの時間を誘発する「観る」ことかなと考えます。

 

本書の中でも、 スイッチオンの時間を増やすための心得が多く書かれていました。例えば、、、

  • 「こんな会議には意味がない」と思いつつ、ぼうっと会議に参加している
  • 与えられた仕事(単純作業含む)に対して、「作業」として手だけ動かしている
  • 自分の仕事が全体のなかでどのような意味があるのかを知らない、考えていない
  • 隣の担当者、隣の課が何をしているのか、よくわかっていない
  • 同じような失敗、ミスを繰り返す
  • 大量の回覧物やメールを日々読んでいるが、何も深く記憶に残っていない

1つでも当てはまるものがあれば、それはオンの時間を増やせるということだ。

時間は有限ですし、すべての人に同じく1日24時間しか与えられません。また「学びの時間」を増やすといっても、普段の生活やプライベートの時間もあるでしょうから、急に毎日1時間勉強の時間を作るなどというのも非現実的でしょう。
であるからこそ、まずは日々の仕事や生活の中で、物事を観る目を鋭くし、スイッチオンの時間を増やすことが成長のための一番の近道になるのです。

本書でも、次のようなコンサルタントらしいエピソードが紹介されていました。

ここで15年くらい前、筆者がコンサルタントとして駆け出しの頃のプロジェクトでの経験を紹介したい。

ミーティングが終わったあと、会議で書き込みがあったスライドのコピーをとって配布するのが経験の浅いコンサルタントの仕事と相場が決まっていた。最低限の仕事をきちんとやろうと、会議終了後に急いでコピーをとって配布した。するとすぐにマネージャーから電話がかかってきた。

「スライドの順番を考えてコピーしたのか?」

そしてマネージャーはこう続けた。

「もし、これで順番を考えながらコピーしたというのなら、議論の流れを理解するスジがかなり悪い。なぜこれではいけないのか、説明するからすぐに自分のところに来い。万が一、順番のことなど考えず、手だけ動かしてコピーしたのなら、それはもっと問題だ。BCGには、頭を使わず、ただこなすだけの作業は存在しない

目の前の仕事を、ただの作業とみなすか、それとも成長機会と捉えるかは本人次第ということですね。

 僕自身も新人には口すっぱくなんども言っています。漫然と仕事をするな、と。
(もっとも、かつて僕も上の人たちに言われてきたことですが)

 

僕の敬愛する経営者にSBIホールディングスの北尾吉考氏の書籍「何のために働くのか」にも、次のようなエピソードが紹介されていました。

元首相の吉田茂さんが青雲の志を抱いて外交官になったばかりのころの話です。吉田さんが最初に命じられた仕事はテレックスの伝達係だったそうです。テレックスが届いたら、それを大臣のところに持っていくわけです。それが吉田さんには不満だったのです。

「最高学府を出て高文試験に通って外務省に入ったのに、なんでこんなつまらない仕事をやらなければいけないんだ」

そして、義父にあたる牧野伸顕公に手紙を書いて、その思いを切々と綴りました。すると牧野公から返事が戻ってきました。

「君はなんと馬鹿なことを言ってるんだ。大臣よりも先に国家の重要な情報を見ることができるのだよ。それを見て、君はどう判断するのか、大臣はどう判断しているのか、その判断の結果はどうなっているのか。君はまたとない勉強のチャンスを得ているじゃないか。こんなありがたいことはないよ」

手紙を読んでいるうちに、吉田さんは自分が間違っていたことに気づき、つまらないと思える仕事でも一所懸命に取り組むように変わっていったのです。

何のために働くのか

何のために働くのか

 

 

6月に入り、多くの会社で研修を終えた新人が部門に配属されはじめているのではないでしょうか。
新人に限らず若い時はどうしても単純作業が多くなってしまうかと思いますが、腐らずにこの教えを胸に抱いて頑張って欲しいですし、若手を預かる先輩社員としてはこのような考え方を教えていかないとですね。

 

まずは、こういった心掛けが大事ですね。

ということでこちらの記事もおすすめです。

lightingup.hatenablog.com

 

ではでは。