点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

瀧本哲史氏を偲ぶ書評:僕は君たちに武器を配りたい

昨日2019年8月16日に、スタートアップ企業を対象としたエンジェル投資家、作家、京都大学で「起業論」を教える准教授として知られる瀧本哲史氏の突然の訃報が流れました。lightingup.hatenablog.com

 

自分自身の話になりますが、実は自分は瀧本氏の教える京都大学出身でして、一般教養で瀧本先生の授業を受けていたこともあり、また先生の書かれた書籍「僕は君たちに武器を配りたい」は新卒での入社先にベンチャー企業を選んだ自分の背中を強く押して、そして支えてくれた一冊でもあり、今回の訃報は本当に残念でなりません。

 

学生時代の自分を支えてくれた一冊

瀧本先生の教えや書籍に書かれていることは、まさに若者たちへのエールそのものでした。「僕は君たちに武器を配りたい」が出版されたのは2011年。おそらく、いわゆる高学歴の学生たちの就職先の候補の1つにベンチャー企業が挙がるようになったのは、それぐらいの年だったのではないでしょうか。

自分が就職活動を行なっていた時期もまさにその時代で、関西にいてもようやく少しずつ東京のベンチャー企業の情報が入ってくる状況でした。しかしそれでも就職先としてベンチャーを選択する人はまだまだ少数で(実際、同じ大学からベンチャー企業に就職する人は、身の回りでは誰もいませんでした)、自分で考え下した結論とはいえ、不安も多かったことを覚えています。

そんな時に、自分を支えてくれたのが、瀧本先生の書かれた「僕は君たちに武器を配りたい」でした。

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今回は、本棚から久々に引っ張り出した本書を先生を偲びながら読み直し、そこに書かれたエッセンスを紹介していきたいと思います。

 

「投資家的な生き方」のすすめ

冒頭部分から、いくつか印象的なフレーズを抜粋します。

本書は、これから社会に旅立つ、あるいは旅立ったばかりの若者が、非常で残酷な日本社会を生き抜くための、「ゲリラ戦」のすすめである。2011年現在、日本の経済は冷え切っており、そこから回復するきざしはどこにも見えない。

(中略)

私が本書を執筆することにしたのは、こうした厳しくなる状況の中で、一人でも多くの学生や若い人々に、この社会を生き抜くための「武器」を手渡したいと考えたからである。日本がこのような経済的に厳しい状況に陥り、若者の未来に希望が感じられない世の中になったことをいつまでも嘆いていても仕方がない。それよりもなすべきことは、このような厳しい世の中でもしたたかに生き残り、自ら新しい「希望」を作り出すことである。 

本書は、一人の投資家である私がこれまで実践してきた「投資家的な生き方」のすすめである。

(中略) 

大切なのは、不労所得を得ることではない。投資家的に考える、ということなのだ。一攫千金を狙うのではなく、自分の時間と労力、そして才能を、何につぎ込めば、そのリターンとしてマネタイズ=回収できるのかを真剣に考えよ、ということなのだ。

書籍の中でも書かれているのですが、モノが急速にコモディティ化している今の世の中では、今まで行なっていた方法論や、「寄らば大樹の陰」の思考や、皆が画一的に行なっている資格の勉強をしても淘汰されてしまうだけです。コモディティ化した市場で一生懸命勝負しても、徹底的に買い叩かれるだけだからです。

そうではなく、先生は「スペシャリティになれ」と説きます。

これからの日本では、単なる労働者として働く限り、コモディティ化することは避けられない。それでは、どうすればそのようなコモディティ化の潮流から、逃れることができるのだろうか。それには縷々述べてきたように、人より勉強をするとか、スキルや資格を身に着けるといった努力は意味をなさない。

答えは「スペシャリティ」になることだ。

スペシャリティとは、専門性、特殊性、特色などを意味する英単語だが、要するに「ほかの人には変えられない、唯一の人物(とその仕事)」「ほかの物では代替することができない、唯一の物」のことである。

 

スペシャリティの6タイプ

コモディティ化せず、資本主義社会の中で安い賃金でこき使われずに、主体的に「稼ぐ」人間になるためには、次の6つのタイプのいずれかの人種になることが必要だと先生は説いています。

 

  1. トレーダー:商品えお遠くに運んで売ることができる人
  2. エキスパート:自分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人
  3. マーケター:商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人 
  4. イノベーター:まったく新しい仕組みをイノベーションできる人
  5. リーダー:自分が起業家となり、みんなをマネージしてリーダーとして行動する人
  6. インベスター=投資家:投資家として市場に参加している人

 

しかしその中でものを流してサヤを抜くだけの「トレーダー」と、時代の流れによって強みが陳腐化してしまう「エキスパート」 は価値を失っていく可能性が高く、したがって、目指すべきは「マーケター」「イノベーター」「リーダー」「投資家」の4種類となります。

もっとも、いずれかの1つになるのではなく、それらの使い分けができることが求められます。

望ましいのは、一人のビジネスパーソンが状況に応じて、この4つの顔を使い分けることだ。仕事に応じて、時にはマーケターとして振る舞い、ある機会には投資家として活動していく。そのような働き方が、これからのビジネスパーソンには求められる

 

投資家として生きる本当の意味

本書ではこの4つのタイプそれぞれ章分けして詳細が書かれていますが、一番分量が多いのは、最後の「投資家」です。これは、先生自身が投資家だという側面もありますが、他の3つのタイプと比べて「分かりにくい」「一般的に知られていない」からだと私は考えています。

では、投資家とは、そして投資家として生きるとはどういうことなのでしょうか。本書に書かれていることをいくつか抜粋します。

「投資」とは、畑に種を蒔いて芽が出て、やがては収穫をもたらしてくれるように、ゼロからプラスを生み出す行為である。投資がうまくいった場合、誰かが損をするということもなく、関係したみなにとってプラスとなる点が、投機とは本質的に異なる。

投資家として生きるということは、「資本を所有して、それを自分のために適切な機会に投資する」ということだ。

この「資本」とは、お金だけを意味するのではないことに、まずご注意いただきたい。例えば自分のスキル・能力、時間も資本であるし、人間関係だって資本である。そのような様々な資本を、適切なタイミングで適切に意思決定し投資する。それが投資家として生きるということであり、瀧本先生が若者たちに伝えたいメッセージである。

 

投資家として生きるための武器

 瀧本先生は、そのために必要な「武器」を本書でいくつも教えてくれている。

投資の機会はなるだけ増やす

投資家的に生きるうえで必要なのが、「リスク」と「リターン」をきちんと把握することである。シリコンバレーの投資家たちはリスクを回避することよりも、リスクを未婚でも投資機会を増やすことを重視する。投資という行為は、何よりも「分母」が大切だからだ、ひとつの案件にだけ投資するのは、カジノのルーレットで一箇所だけにチップを置くようなものなのだ。重要なのは、できるだけたくさん張ることなのである。

自分で管理できる範囲でリスクをとる

投資家的な生き方をするうえでは、投資の機会はできる限り増やすのが望ましい。ただし注意すべき点がある。それは「自分で管理できる範囲でリスクをとれ」ということだ。

投資は長期的に考える

バフェットから学べることで何より大切なのは、「短期的な儲けではなく、長期的な視点で意味のあることに投資せよ」ということである。また同時に「人を見て投資せよ」という投資の鉄則もバフェットから学ぶことができるだろう。

ニュースの裏を読む

投資家的に生きるために絶対に必要なのは、「真実」に気づく「ニュースの裏を読む力」である。新聞などで何かしらの情報を見た時に「この会社はこれから伸びそうだな」と感じたら、自分と同じことを考える人間が世の中に数万人から数十万人はいると思ったほうがいい。その時点で、すでにあなたの考えは「コモディティ」になっているのである。

調べる一手間を惜しまない

世の中の多くの”残念な人”は、「自分で調べる一手間」をかけようとしない。しかし投資家として生きるのであれば、あらゆることについて自分で調べてみて、考えて結論を出すことが必要となる。

「自分の頭で考える」ことが、投資家的に生きることの第一歩となるのだ。

未来を予想しながら身の回りのインサイダー情報にかける

株式投資ではないインサイダー取引は、100%違法ではない。具体的にいうと「公開・非公開は問わず、この会社は伸びると確信したら、株式以外の投資をすればいい」ということである。

(中略)

あなたが今日の営業先として向かうベンチャー企業が、もしかしたら3年後には上場しているかもしれない。その逆に、無理難題を言ってくる大手クライアントが、来年には倒産しているかもしれない。未来を予想しながら、その未来に自分自身が関わっていくことが投資家的に生きる道なのだ。

(中略)

これから生き残っていくのは、個人も会社も、そうした「投資」をきちんと行なっていけるかどうかにかかっている。行き先が見えにくい時代だからこそ、ある時点でのひとつの投資活動が、その後の自分の未来を大きく変えるのである。

 

瀧本先生からのエール

久々に先生の書籍を読み進め、胸の中に熱いものが込み上げてきました。多感な大学生の時代に、先生の授業や書籍を通じ、先生の教えに触れることができたのは人生における財産です。

最後に、本書の最終章「ゲリラ戦のはじまり」から、若者へのエールを抜粋し紹介します。

時には周囲から「ばかじゃないのか」と思われたとしても、自分が信じるリスクを取りにいくべきだ。自分自身の人生は、自分以外の誰にも生きることはできない。たとえ自分でリスクをとって失敗したとしても、他人の言いなりになって知らぬ間にリスクを背負わされて生きるよりは、100倍マシな人生だと私は考える。

社会全体のパイが小さくなっているときに、才能がある人、優秀な人は、パイを大きくすること、すなわちビジネスに行くべきだ。パイ全体が縮小しているときに、分配する側に優秀な人が行っても意味がない。誰が分配しようが、ない袖は振れないからだ。社会起業家とか公務員という選択は、社会に富が十分にあって分配に問題がないときなら意味があるだろう。だが分配する資源がなくなりつつあるのが、今の時代ではないだろうか。

人生は短い。愚痴をこぼして社長や上司の悪口を言うヒマがあるのなら、ほかにもっと生産性の高いことがあるはずだ。もし、それがないのであれば、そういう自分の人生を見直すために自分の時間を使うべきだ。

これからの混沌とした社会の中で、一人でも多くのゲリラ戦を戦おうとする同志に、これからも私は武器を配っていきたいと思う。

 

これらの言葉に、いったいどれだけ勇気付けられたことか。先生には感謝しかないです。

そして学生時代に先生に武器を配っていただいた身として、これからもその武器を使い続けていくことが、先生への一番の恩返しだと改めて思った次第です。

 

これからも、戦い続けよう。

 

ではでは。

 

僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい