点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

「幸福学」について経営コンサルタントとして真面目に考えてみた

幸せな従業員は、不幸せな従業員よりも、創造性が3倍高く、生産性が30%高い。
欠勤率が低く、離職率が低く、組織を助け、外交的で、知的で、創造的で、情緒が安定し、健康的であり、長寿でもある。
(心理学者ソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究)

 

最近書店やネットの記事などで、「幸福学」という学問、考え方を目にすることが増えたと感じる。冒頭に書いた通り、幸せな従業員は「創造性が3倍高く、生産性が30%高い」そうだ。

 

なお今回の記事を書くにあたり、主に以下の書籍をインプットとし、そこに自分自身の考えを交えながらアウトプットしている(書籍の紹介は一番最後に)。

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「幸福」の定義

まず慶應大学システムデザイン・マネジメント研究科の前野教授の言葉を引用し説明する。

幸福学とは読んで字のごとく幸せについての学問であるが、英語では Well-being Study、Happiness Study、Positive Psychology などと呼ばれている。

幸せを英訳すると happy だと思われがちだが、幸せとハッピーとは少しニュアンスが異なる。ハッピーは気分、感情に近く「ワクワクして楽しい気分」というような短いスパンの心の状態を表すのに対し、幸せは、ハッピーな気分から、豊かな時間、いい人生といったような、時間スパンの長い状態までを表す

ミシガン大学レッチェン・スプレイツァー教授とジョージタウン大学クリスティーン・ポラス准教授の、もう少し「仕事」に即した文脈の言葉を借りると、次の通りとなる。

仕事での幸せとは何を意味するのだろうか。「満足」とは違う。これは多少なりともぬるま湯をにわおす言葉だからである。私たちは研究を続け個人や組織が長期的に高いパフォーマンスをあげる要因を探った。そして、「成功している」という、よりよい表現にたどり着いた。

成功している社員は2つの特徴を持つことがわかった。第一の特徴として、彼らは活力のみなぎらせている。生きているという実感と情熱にあふれ、胸を高鳴らせている。第二の特徴は、たゆまぬ学習である。新しい知識や技能を身につけ成長していくのだ

学術サイドだけでなく、実業界から、ユニリーバの取締役人事総務本部長島田由香氏の言葉を紹介する。

ユニリーバでは「幸せ度を高める」という取り組みがあるわけではありません。しかし、「自分らしさを大切に!」ということを常に意識しています。

これからの組織のあり方を考える上で『自律型組織』というものに共感を覚えます。自律とは主体性であり、何も決まっていないことでも自分で考えて取り組むこと。私は、この自律性が幸せとも比例すると考えています。自分で創造しながら主体的に取り組むこと、つまりクリエイションのできる人は、幸福度も高いのではないでしょうか。

そのため、私にとって『目的』はとても大切な言葉です。社内でも初めての上司や部下に必ず聞くことは『あなたの人生の目的な何ですか?』ということ。なぜなら自分の人生の目的と会社のそれが合致していれば、仕事が円滑に進み、パフォーマンスが向上するだけでなく、何より楽しいですから。

いずれも異なる視点から語っているが、根本には似たものを感じる。

いずれも短期的・刹那的な喜びではない。また金銭や地位の獲得といった、他者からの評価によるものでもない。そうでなはく、自己実現や自身の目標といっやより根源的・根本的であり、長期の時間軸で語られるもののように思われる。

そういう意味で、個人的には「Happiness」よりも「Well-being」という言葉の方がしっくりきている。

 

さて、幸福学への理解をもう一段階深めるために、再び前野教授の言葉を引用する。ここまでは端的に言うと短期・長期や表面的・根本的という二項対立論であったが、ここに利己的・利他的という軸を加える。

アメリカ型の幸せな会社と日本型の幸せな会社では、やや異なる傾向があるように思う。アメリカの企業が社員の幸せを考える時、ハピネス、つまりポジティブな感情ないしはヘドニア(欲求充足的幸福)に着目することが多い。一方で、日本の企業はどちらかというと、社員の人生にわたる幸せ、みんなのために働くということといったような、利他的な幸せに着目する傾向がある。

いわば個人主義集団主義かということである。ただしこれに関しては、どちらが良い悪いということではなく、両サイドからの考え方・アプローチがあるということを理解いただきたい。

個人主義的に自己成長ややりがいの達成、自分らしくあることに幸せを感じることも正解であるし、他者を助けることで喜びを感じることもまた正解である。また利他的な幸せは東洋の特徴かといえばそうではなく、孔子の語る「仁」とキリストの語る「愛」は根源は一緒だと思う。

それにいきなり利他的な幸せを考えること自体が間違っているのであって、自分自身を愛せない人は、他人を愛することなどできないのである。キリスト的に言えば「自分を愛するように隣人を愛しなさい」である。

 

なぜ幸福学が着目されているのか

『幸福学×経営学』という書籍のカバーに、端的かつ分かりやすい理由が書かれていた。

かつては、企業が社員を不幸にすることで競争に勝てる時代がありました。

しかしそれはもう限界です。

逆に、これからは、働く人を幸せにできる企業しか生き残れない。

この言葉に尽きるのではないだろうか。

例えば、少し前に化学メーカーのカネカが育休取得から復帰した男性社員に即地方転勤の事例を出して大炎上した出来事があった。

その際、私も考えをブログにまとめて投稿したのだが、現代においては若者中心に考え方が経済が右肩上がりで単一商材だけを作っていればよかった時代から大きく変わってきている。上記言葉を借りれば、「企業が社員を不幸にすることで強制に勝てる時代」は終わったのである。

lightingup.hatenablog.com

 

また別の言葉を組織人事領域を専門とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」の中の人が書いた『エンゲージメント経営』から引用する。

日本では、ある意味で、会社は利益創出のための目的型組織ではなく、社員が同じ価値観を共有する共同体、あたかもムラのように機能していた。ムラ社会的な日本の会社では、社員は一度就職したら集団の秩序に適合するように努力し、その会社で職業人生を全うすることが絶対的な正義なのだ。社員がこうなのだから、会社は社員一人一人の幸せなど真剣には考えてはこなかった。否、考える必要がなかったのである。

時は移ろい、現在多くの会社では、かつてのような共同体的な組織運営が困難になっている。まず、そもそも右肩あがりの成長が止まってしまっている。これまで会社を支えてきた主力事業が成熟期か衰退期に入ってしまい、人手不足の真逆で人員過剰になり、雇用調整の必要にさえ迫られている。

人間、自分が属するコミュニティの変化には敏感なもので、会社の雰囲気がこれまでとは変わってきたと感じれば、このままここで働いていて、幸せに定年退職をも変えることができるのだろうか?と漠とした不安が頭をもたげてくる。ベテランになるほどすぐに会社を辞めようという心持ちにはならないとうだが、問題はこれからの会社を引っ張っていくべき層である、20代と30代の社員層だ。

何も反論できないほどの痛烈な指摘である。

作れば売れたという時代はとっくに終わっている。にも関わらず経営層はかつてと同じかマネジメントを続けている。そして従業員は経営層が思っている以上に敏感に、その危機感を嗅ぎ取っているのである。

 

そういった世の中だからこそ、鶏が先か卵が先かという議論もあるが、従業員のことを考えた経営が着目し始めている。幸福学よりも市民権を得ている言い方だと、この書籍のタイトルであるエンゲージメント経営や、カスタマーエクスペリエンスにあやかったエンプロイーエクスペリエンス、従業員満足度、社内風土改革、さらに言えば働き方改革もこの文脈で語ることができる。

 

しかしこれらの考え方と「幸福学」には1つ大きな違いがある。前野教授の言葉を借りると、

従業員が幸せになることが結果的に会社全体をも幸せにします。

従業員満足度は仕事内容への満足、職場への満足、福利厚生への満足など「部分的な充足」を測る指標であるのに対して、従業員幸福度は、社員としての部分的な満足度だけではなく、人間関係や家庭環境、余暇の楽しみなどをすべて含む、人間としての「人生全般に関わる全体的な充足」を測る指標であるからです。従業員満足度よりも、従業員幸福度の方が生産性に寄与している、という研究結果もあります。

したがって、これも前野教授の言葉ですが、

答えの見つからない世界においては、組織メンバーがそれぞれ多様な工夫や試行錯誤を惜しまないことの方が有効

なのであり、そのため生産性と創造性を高める幸福学が着目されているのだと理解している。

 

どのように従業員の幸福度を高めていくか

2つのアプローチを紹介と、それに関連して私の考えを述べながら、今回の投稿のまとめとしていきたい。

まずは、コーン・フェリーのエンゲージメント経営から。

 

ザ・コンサルティングな分析アプローチ

本書の優れているところは、とてもコンサルチックであるところ。どういうことかというと、社員エンゲージメント調査で会社と従業員の双方向の関係性を明らかにし解決すべき項目を浮き彫りにするとともに、海外先進企業をベンチマークとして、どの領域であれば費用対効果よく伸ばすことができるかというフィージビリティ調査を行い、優先順位をつけて対応策を検討していくというもの。うん、実にコンサルらしいアプローチである。

 

さて、まず前者のエンゲージメント調査であるが、コーン・フェリーは23万人の調査結果から、エンゲージメントの高い会社とそうでない会社における差が大きく現れている項目のリストアップを行なった。その結果は、差が大きい順に以下の通りである。

  1. 顧客に提供する体験的価値への自信
  2. 成果創出に向けた効果的な組織体制
  3. 自社におけるキャリア目標達成の見込み
  4. 生産性を高めるあめの環境整備
  5. やりがいや興味がある仕事を行う機会
  6. 仕事を進めるための十分な人員の確保

本書でも書かれているのだが、エンゲージメントと強い関係性を有している因子の1番が「顧客に提供する体験的価値への自信」であり2番が「成果創出に向けた効果的な組織体制」だということは、大きな驚きである。

直感では自信のキャリアややりがいといったものが最上位にランクインしそうに思えるが、それらは3位と5位であった。

 

そして続く海外先進企業の取り組みとの差分を評価したところ、まず最も差分が少ないのは「成長の機会」「教育・研修」「業績管理」「権限・裁量」といった因子であり、これまた意外な結果。直感的には個人主義色の強い海外企業の方が、社員の成長を意識してそのための機会を充実化させているかと思ったのに。。

反面、差分が大きい、つまり日本企業にとって伸ばす余地が大きいのは「品質・顧客志向」「リソース」「業務プロセス・組織体制」「戦略・方向性」などの戦略論や組織マネジメント論とのこと。

 

この結果が意味していることはとても明快である。

日本の会社は、社員に対して顧客に提供している価値を十分に伝え切れていない。あるいは、顧客目線で見た自社の存在意義が、社員にとっては不明瞭な場合が多いということだ。同時に、十分な成果を上げるための組織体制なり人員が整っていない、そう社員が捉えている。そして、それらの不足感が社員エンゲージメントの低下を招いてしまっている。

一方、「キャリア目標達成の見込み」や「やりがいや興味のある仕事を行う機会」は社員エンゲージメントの高低を大きく左右する因子であるものの、それらのスコアを上げるような打ち手を講じることは難しい、という結論が論理的に導き出せる。

社員が会社に所属することに喜びを得て、熱意を持って働くためには、自社の存在意義を社員に感じさせることが、費用対効果の面からも鍵となりそうだ。

 この結果を、みなさんはどのように受け止めるか、とても興味がある。

まず、組織戦略論という企業にとって極めていく必要性・必然性がとても高い項目を強化すべきという点は誰しもな納得するであろうし、存在意義、つまり最近はやりの言葉で言い換えると「Purpose」を強く打ち出すことも、納得できる。

しかし、キャリアや仕事そのもののような個人に即した項目は、難易度が高いという理由で後回しにしてしまう。ここに関しては残念と感じる人が多いのではないだろうか

そしてさらに言うと、これはフィージビリティ調査の限界なのであるが、私自身としては、このように難しいことに挑戦するからこそ、競合優位性は生まれると考えている。施策の優先順位や Quick Win 目的としては費用対効果の高い施策から着手すればいいと思うが、やはり中長期的な視点で、従業員のキャリア形成を、企業・組織には考えてもらいたい。

 

より「幸せである」ことに着目したアプローチ

 そう考えながら、他の書籍を読み進めると、何回も登場している前野教授と、社員のハピネス向上をミッションとする「CHO」を日本に広めることを目指している Ideal Leaders 株式会社の丹羽真理氏の対談が載っている『パーパス・マネジメント』という書籍で下記のように書かれていた。

丹羽:最近では、生産性を高める要素として「エンゲージメント」にも注目が集まっていますよね。「エンゲージメント」と「幸せ」は、どのように違うのでしょうか。

前野:分析してみると、相関は高いですね。エンゲージメントは仕事に没頭して集中している状態のことなので、やりがいの一種とも言えます。あるいは、人間関係やリソースを整えてやりがいを感じるようにすることと言い換えてもいいでしょう。

丹羽:人間関係やリソースを整えることを含めてエンゲージメントなのだとすれば、従業員満足度よりは包括的な概念ということでしょうか。

前野:そう思います。ただし、「幸せ」と比べると、小さい概念だと思います。幸せには、感謝する姿勢や周りとの信頼関係といった要素も含んでいます。そもそも、幸せというのは、ワクワクやトキメキと同じく、全体的で包括的な心の状態を感性として表す言葉なんです。

つまり、個人にフォーカスするアプローチの難易度が高いとし劣後にしたエンゲージメントアプローチよりも、幸福学のようなより包括的な概念だと述べているのである。希望が持ててきた!

 

この対談している両者、それぞれが幸せになるための因子を発表しているので紹介しようと思う。まずは丹羽氏のIdeal Leaders の考える「仕事における幸せ」を形作る要素から。

  1. Purpose(パーパス=存在意義)
  2. Authenticity(オーセンティシティ=自分らしさ)
  3. Relationship(リレーションシップ=関係性)
  4. Wellness(ウェルネス=心身の健康)

存在意義はコーン・フェリーの結論と一緒であるが、自分らしさや周囲との関係性を挙げている点に注目したい。

 

続けて前野教授が提唱する因子は次の通り。

  1. 「やってみよう!」因子:自己実現と成長
  2. 「ありがとう!」因子 :つながりと感謝
  3. 「なんとかなる!」因子:前向きと楽観
  4. 「ありのままに!」因子:独立と自分らしさ

似たところが多いのに気付くであろうか。「ありのままに!」因子はまさに「Authenticity」であるし、「ありがとう!」因子は「Relationship」だ。「Purpose」が意味するところは、会社の存在意義と個人の存在意義を合致させることであるので、それはつまり自己実現と成長を意味する「やってみよう!」因子と通じる。

 

理論と感情を融合させる 

一方で経営コンサルティングという仕事を行なっている以上、このスローガンだけだと感情的に見え、どうしても頼りなく感じてしまう自分もいる。

しかし暫し考えて、そこはコーン・フェリーのいかにもコンサル的・理論的な考え方と、「幸福学」が勧めるややもすると感情的な考えの合わせ技だなという結論に自分の中では至った。

つまり、トップダウン式の「会社の存在意義」を明確化していくことは従来のコンサルティング手法で行えばよくそれは当然するべきであるが、それだけに止まらず、従業員との対話を通じた「個人の存在意義」を明らかにしていくボトムアップ式の取り組みも行うのである。そのための鍵は、前者は経営層であるのに対し、後者は中間管理職などのリーダー層だ。彼らが部下にと対話しながら動機付けをしなければならないわけなので、必然的にコーチングや共感力などスキルが必要になってくる。つまりオーセンティリーダーシップである。

(と思ったところ、ハーバードビジネスレビューは「オーセンティ・リーダーシップ」に関する書籍も出版しているではないか。なんと準備のいいことだ)

lightingup.hatenablog.com

 

冒頭に利己的・利他的のバランスということを書いたが、人間利己的な充足がなければ他者に目がいかないものである。そういう意味で、どうして自分がその組織で働くのかという存在意識を深掘りすることは不可欠なアプローチであるし、それができれば、会社も従業員に対して仕事内容やキャリアに対する動機付けを行いやすくなるはずだ(それどころか、従業員が自ら意義を見つけ出してくれるはず)。

そして内面的動機付けが喚起された従業員というものは、自然と周囲のため会社のために、つまり利他的に働くようになるのではないか。そうすると、周囲との関係性の中でより働くことへの「幸福度」が高まり、それがまた自分らしさを作り上げていく、という良い循環が生まれていく。

 

1日の8時間から長い場合は十数時間を会社で過ごすわけですから、その時間が幸せでないということは、とても不幸せなことですよね。

これからの時代、そのような純粋な気持ちだけでなく、企業の戦略的手段の一貫として、あるいは企業の存在目的の1つとして、「幸福学」にもっともっと注目が集まるようになることを信じて止みません。

 

追記:ちょっとした続編を書きましたのでこちらもよろしければどうぞ。活発な人が多い組織は幸福度が高いとのこと。

lightingup.hatenablog.com

 

最後に、今回の投稿で参照した書籍は下記の通りです。それぞれ一言レビューでも書こうかと思っていたのですが、もう力尽きました。。。気になる書籍があればAmazonのレビューをご覧ください。

幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える

幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える

 
ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 幸福学 (ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ)

ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 幸福学 (ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ)

 
パーパス・マネジメント

パーパス・マネジメント

 
エンゲージメント経営

エンゲージメント経営

 

 

ではでは。