点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

書評:「オーセンティック・リーダーシップ」から読み解く今後求め得られるリーダー像(ハーバードビジネスレビューEIシリーズ)

昨年よりハーバードビジネスレビューでEIシリーズという書籍が販売されています。

EIと言う言葉は初耳の方も多いかもしれませんが、ここ数年で「頭脳指数IQよりも大事なもと」として注目されるようになった、心の知能(EI: Emotion Intelligence)と呼ばれるものです。なおEIではなく、EQ: Emotion Intelligence Quotient と呼ばれることもあります。

 

本書はそのEIをテーマとした一連のシリーズ「幸福学」「共感力」「マインドフルネス」に続く4冊目の「オーセンティック・リーダーシップ」。

 

オーセンティック。本物や正真正銘のという意味ですね。 

では具体的にどういうものか見ていきましょう。

f:id:tokudamakoto:20190526170536j:image

 

今の時代に求められるリーダーシップとは

リーダーとは、リーダーシップとは、どういう姿が理想なのでしょうか。

カリスマ性があり、力強く、トップダウンで多くの人々を牽引し、威厳に満ちている。

こういうキーワードがいわゆる多くの方が「リーダーシップ」と聞いて真っ先に思い浮かべる言葉ではないでしょうか?

 

しかし常々思うのですが、そういう固定観念というのは、時代の変化に追いつけずにオールドファッションとなることも多いのではないか。もちろん、いつの時代も変わらず普遍的なものもあります。しかし、固定観念だけの考えだけでは、この変化の流れの早い時代に対応できないものもあるでしょうか。

社会や組織のあり方、帰属する人たちの様式が大きく変わっている現在、時代に求められるリーダーシップのあり方も変化してしかるべきではないでしょうか

 

オーセンティックリーダーシップとは、まさに新しいリーダーシップの形。

本書の中では次のように紹介されていました。

これまでは。リーダーの行動に関する「What」や「How」が中心で、リーダーから外側に向けられた矢印が中心だった。しかし「オーセンティック・リーダーシップ」は「Why」を問う。なぜ、あなたがリーダーなのか、と。
他者ではなく自分自身に矢印を向け、自分のあり方を考える。端的に言うと、「自分らしさを貫く」ことを最も大切にしているリーダーシップ論だ。自分らしさを軸に、自らの目標に情熱的に取り組み、自らの価値観をぶれることなく実践していくことである

「オーセンティック」、すなわち「自分らしさ」を貫くリーダーは、自らの目標に情熱的に取り組み、自らの価値観をぶれることなく実践し、知識だけではなく感情の面から人々を引っ張っていく。実りのある人間関係を長期的に築き、自らを律することで結果を出す。それもこれも、自分自身をよく知っているからである

社会関係の根底にあるものは、弱みを隠さず、傷つくことをいとわない姿勢である。対象から距離を置いて没感情的に行動するプロフェッショナルらしさではなく、不確実性やリスクがあっても踏み込んで、感情を隠さず見せる姿勢だ。
 そして「オーセンティシティ」(本来の自分らしくあること)が、人間的なつながりの根底にある。多くの職場で絆が著しく失われている現在、この指摘は極めて重要だ。

確かにこれまでのステレオタイプのリーダーシップとは異なりますよね。

でも、上に書いた通りの、正直で誠実で、そして感情豊かで共感できるリーダー。確かに悪くないですよね。

 

なお、オーセンティックリーダーシップの提唱者であるハーバード大学のビル・ジョージ教授は、次の5つの特性を挙げています。

  • 自分の目標を明快に理解する
  • 自身のコア・バリューに忠実である
  • 情熱的に人をリードする
  • 人とリレーションシップを構築する
  • 自身の規律を守る

 

オーセンティック・リーダーシップは誰もが発揮できる!

ちなみにですが、日本ではリーダーシップは一部の人が発揮すればよく、その他大勢はフォロワーとして付いていけばよい、という考えが一般的かと思います。

 

がしかし、この考えには、はっきりの No といいたい。

リーダーシップスキルは全員が大なり小なり身につけるべきです。

 

このことに関しては、ちきりんが僕なんかよりも100万倍伝わりやすくまとめていますので、ぜひこちらお読みください。

chikirin.hatenablog.com

 

その上で、オーセンティック・リーダーシップは誰もが身につけることができます。

なぜならば、ステレオタイプなリーダーシップはカリスマ性や人を惹きつけるなどの属人的な要素が閉める割街が多かったのに対し、オーセンティックリーダーシップが求める「自分らしさ」は、自分自身への正しい理解と、そしてちょっとした勇気さえあれば、誰でも発揮できるからです。

本書には、オーセンティックなリーダーになるための過程が書かれていたのでまとめてみます。

  1. 自分の半生について理解する。大事なことは、人生で起こった事実ではなく、それをどのように意味付けて語るか
  2. 自己認識力を高める。自らの内面について深く考える。勇気をもってつぶさに自分の過去を覗き込み、そして自分の弱さをも認める
  3. 自分の価値観を体現する。価値観は逆境の時こそ明らかになる。自分にとって本当に大事なものは何か、一方、犠牲にしても構わないものは何か、このようなトレードオフに決着をつけるのは成敗やキャリアの存亡、さらには生命の危機がかかっている時である
  4. 外発的動機よりも内発的動機に注目する。自分を動かす動機を十分に理解する。認められたいという外的動機と仕事に満足感を与える内発的動機の間で、うまくバランスを取ることが何よりも大事である
  5. 応援団をつくる。確固たる人間関係は視野を広げてくれる。それがなければあっさりと道に迷ってしまうだろう
  6. 一貫性があり、堅実な生活を送るワークライフバランスには、それを構成する要素のすべて、すなわち、仕事、過程、地域社会、交友関係において、常に同じ人間であることが求められる
  7. エンパワーメントする。自分らしさを貫くリーダーは周囲の人間を刺激するだけではなく、リーダーになるように仕向ける

本書に記載されていたことではなく僕個人の考えですが、おそらくは最後の「エンパワーメントする」ことが、特にこれからの社会では求められるのではないでしょうか。 

 

オーセンティック・リーダーシップを目指す上での注意点

僕がEIシリーズを好きな理由の1つに、「オーセンティック・リーダーシップ」や「幸福学」「共感力」という新しい概念に対して、ポジティブな面だけでなく、その反対意見や危険性に言及している論文も掲載していることがあります。

それにより、自分なりにより深く咀嚼することができます。

 

今回のオーセンティック・リーダーシップ、つまり自分らしく振る舞うという点、これは時によってはそれがマイナスに作用してしまうこともあるでしょう。また、「自分らしく」振る舞うことと、「利己的に」「わがままに」「自分勝手に」振る舞うことの境界線は誰がどこにどうやって引けばいいのでしょうか。

本書でも以下のような言及がありました。

リーダーの資質に欠ける者が、素のままの自分を出して行動したり、思いつくまま話し始めたりしたら面倒なことになる。実際、これが自分なのだから仕方がないという開き直りが、間違った行動の言い訳にされていることもある

「これが私のやり方です」という言い分は、「リーダーは常に自分らしくあれ」と説くオーセンティシティ重視の風潮のなかで正当化されがちだ。しかし、自分に正直であることを言い訳にして、自分は本当はどんな人間か、どんな行動をしているか、それはなぜか、という重要なことから目を逸らしてはならない

これは、現代日本社会にとってもとても意義のある警鐘ではないでしょうか。

「No.1にならなくてもいい もともと特別な Only One」

「ありのままの姿見せるのよ ありのままの自分になるの」

こういう歌詞に後押しされ、自分らしく振る舞うことが推奨されてきた平成時代。

でもその結果が、自分やごくごく身近な仲間内しか見ずに行動してツイッターで炎上する若者世代、社会的地位を得ながらも利己心により社会問題を引き起こす壮年世代、そして過去の成功体験に固執して頑固になり問題を起こす団塊以上の高齢者世代。そういう人たちが増えてきたなと感じるのは僕だけでしょうか。

 

本書では、オーセンティックには社会性が求められるとはっきりと書かれています。

あなた自身があなたのリーダーシップスタイルの礎であるべきことは間違いない。しかし、自然な自分を表に出す前に、自分はどんな人間であるかをしっかりと見つめ直すことが大切だ

自分がどう見られているかを知る:信頼できる同僚に、自分と一緒に仕事をしていて難しいと感じるのはどんなところかを尋ねる。相手の話しに注意深く耳を傾け、発言をそのまま書き留める。その際、自分の行動を説明したり、正当化したり、弁解したりしない

成長や環境の変化に伴い自分のストーリーが時代遅れになったりするため、時には大幅に変更することや、完全に放棄して最初から作り直すことさえも必要になる

自分のストーリーを書き直すことは、内省的なプロセスであると当時に、社会的なプロセスでもある

 

自分ではない誰かになる必要なないし、借り物のリーダーシップを発揮する必要はない。
でもそれは自分勝手に振る舞うこととイコールではない。
内省的な人間形成と周囲への影響を考えた社会性の両軸が必要ということですね。

 

という形で、「オーセンティシティ・リーダーシップ」もこれまでのシリーズ同様にとても興味深かったです。次回作も楽しみです。

 

ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] オーセンティック・リーダーシップ (ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズ)

ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] オーセンティック・リーダーシップ (ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズ)

 

 

ではでは。