点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

書評:ニュータイプの時代 〜 「意味」の重要性の増す時代を生き抜くために

面白いブログ記事があった。GoogleAppleなどの新興IT企業がそれほど戦略コンサルティングファームを利用しないのはどうしてか、という考察だ。

digitalbizpro.hatenablog.com

 挙げている理由は3点。

  1. 戦略自体の重要性が低い
  2. 実行力(言い換えれば戦略ではなく「戦術力」)に重きを置いている
  3. 戦コンのケイパで欲しいのは「地頭の良さ」だけで、それなら卒業生を雇った方が早い・安い

この戦略自体の重要性が低いというのは、記事でも言及されているがGAFAはすでに優れた戦略を持っているという面と、新興IT企業たちにとって重要な「技術の栄枯盛衰」の見極めをコンサルティングファームが得意としていない、とのこと。

これはまさにその通りだと思う。右に習えで同じことをより効率的に、早く、安く行なったり、合理的にすべきこととそうでないことを判断できた時代は、コンサルティングファームのような「客観的視点」からのアドバイスは非常に有意義であっただろうが、混沌としている現代社会に置いて、旧態依然としたいわゆる古い日本企業が苦しんでいるのと同様に、コンサルティングファームも変わらなければならない(よって今どこのファームもテクノロジーやデジタル領域に重点を移しつつある)。

 

そのような時代、何を考えどう行動していけばよいのか。その一つの考え方として優れた書籍があったので紹介したい。元BCGの山口周氏の書かれた「ニュータイプの時代」という書籍だ。

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本書では、徹底して「これまで活躍してきた人材要件=オールドタイプ」と「これから活躍する人材要件=ニュータイプ」を端的に対比している。

その一例は以下の通りだ。

オールドタイプ

ニュータイプ

正解を探す

問題を探す

予想する

構想する

KPIで管理する

意味を与える

生産性を上げる

遊びを盛り込む

ルールに従う

自らの独特観に従う

1つの組織に留まる

組織間を越境する

綿密に計画し実行する

とりあえず試す

奪い、独占する

与え、共有する

経験に頼る

学習能力に頼る

 

オールドタイプが通用しなくなった背景

細かな内容は書籍をぜひ読んでいただきたいが、どうしてオールドタイプが通用しなくなったのかの背景を本書から抜粋しながら紹介していきたい。

山口氏は6つのメガトレンドが原因だと本書の中で主張している。

  1. 飽和するモノと枯渇する意味
    私たちは「モノが過剰で、意味が希少な時代」を生きています。「モノ」がその過剰さゆえに価値を滅殺させる一方で、「意味」がその希少さゆえに価値を持つ時代というのが21世紀という時代です
  2. 問題の希少化と正解のコモディティ化
    モノが過剰に溢れかえる世界にあって、私たちは日常生活を送るにあたって、すでに目立った不満・不便・不安を感じることはなくなっています。これはつまり、今日の日本ではすでに「問題が希少化」していることを示しています
  3. クソ仕事の蔓延
    そもそも、本来の仕事が「有用なモノを作る」あるいは「重要な課題を解決する」ということであれば、モノが過剰にあり、問題が希少となっている社会では、仕事の本来的な需要は減少するはずです。しかし、私たちの労働時間は100年前とほとんど変わっていません。
    (中略)結論から言えば、私たちの多くは実質的な価値や意味を生み出すことのない「クソ仕事」に携わっている、ということになります
  4. 社会のVUCA化
    VUCAとは、Volatile(不安定)、Uncertain(不確実)、Complex(複雑)、Ambiguous(曖昧)という今日の社会を特徴付ける4つの形容詞の頭文字を合わせた言葉です。これらの4つの特徴が、現在の私たちを取り囲む状況であることに反論できる人はいないでしょう
  5. スケールメリットの消失
    1つ目の要因として指摘したいのが限界費用のゼロ化です。その巨大さゆえに有していたアドバンテージ、つまり「スケールメリットによる限界費用の低さ」がもはや成立しなくなります。
    2つ目の要因として指摘しなければならないのがメディアと流通の変化です。メディアや流通のありようは大きく変化し、サブスケールの個人事業主が、各々の関心や意図、求めている「意味」に応じて精密にコミュニケーションをとることが可能になりました。
  6. 寿命の伸長と事業の短命化

    多くの人が現役として働く期間の方が、企業の平均寿命よりも、ずっと長いという時代がやってきてしまいました

     

企業の停滞を招いている理由はビジョンが足りないことだ

いずれも納得する内容である。特に前半の2つ。

多少の不便さであったり、少子高齢化という世の中的な大きな問題は残っていはいるが、世の中の大抵の課題はすでに解消されてしまった。その結果行き着いた先が、ガラパゴスと揶揄される日本メーカーであろう。モノの本質的な課題解決能力では差がつかなくなってしまったので、やたら無意味にマイナスイオン効果を付けたりしている。

そういう時代にあっては、目の前の課題を粛々と片付ける優等生タイプは相対的に重要度が下がり、ビジョンを元に、「どうあるべきか」から逆算して解くべき課題を見つけ出す人が重宝されるようになる。

山口氏は書籍内で次のように述べている。

ビジネスが「問題の発見」と「問題の解消」という組み合わせで成り立っているのであれば、今後のビジネスではボトルネックとなる「問題」をいかにして発見し定期するのかがカギになります。そして、この「問題を見出し、他者に提起する人」こそがニュータイプとして高く評価されることになるでしょう

問題解決の世界では、「問題」を「望まし状態と現在の状態が一致していない状況」と定義します。「望ましい状態」と「現状の状態」に「差分」があること、これを「問題」として確定するということです。
したがって「望ましい状態」が定義できない場合、そもそも問題を明確に定義することもできないということになります。つまり「ありたい姿」を明確に描くことができない主体には、問題を定義することができにあ、ということです。

私たちは「ありたい姿」のことをビジョンと表現しますが、つまり「問題が足りない」というのは「ビジョンが不足している」というのと同じことなのです 

これは、多くの企業がイノベーション、あるいはオープンイノベーションを目指すもうまくいかない理由にも当てはまる。多くの企業が、ビジョンを実現するためではなく、イノベーション自体が目的となってしまっているのだ。山口氏の指摘は痛烈だ。

現在の多くの組織では、そもそも「解答を出すべき問題」が明確になっていないことが多い。解決したい課題が不明確な状態で「何か儲かりそうなアイデアはありませんか」とお見合いを繰り返している、というのが多くの企業におけるオープンイノベーションの実情になっています。これは典型的なオールドタイプの思考モデルというしかありません。共感できる課題設定もないままに、いくら外部からアイデアやテクノロジーを募ったところで、大きなインパクトが生まれるわけがありません

 冒頭にGAFAに戻ると、どこの会社も事業を通して実現した社会、ビジョンが明確である。また低迷せずに頑張っている日本企業の一部もビジョンが明確なことが原動力になっているケースは目にする(なお曖昧なビジョンでうまくいっている会社もあるが、それれは過去の成果で培った貯金を使っているだけだ)。

これは昨今流行っている言葉を借りると「Purpose」と言い換えることもできると思う。Purpose、つまりなんのために存在しているのか。Purposeが明確な会社は仕事の意味も明確となり、従業員の目指す方向も一致するし、また優秀な人材も集まってくる。

 

参考:

lightingup.hatenablog.com

 

このように、本書では オールドタイプ vs ニュータイプ という切り口で、「問題」が希少化し「意味」の重要性の増す時代にどう生き抜くべきか書かれている。コンサルティングファームに務める身としても、どうしてもコンサルタントはオールドタイプに寄りがちであるので、この視点は忘れずに日々の仕事に向き合っていきたい。

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

 

 

ではでは。