点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

最新の SaaS(Software as a Service)事情

NewsPicで面白い記事を見つけた。
(Sponsored記事のため最後は求人広告やイベントに繋がるので、その点悪しからず)

「最新SaaS事情」と題され、インターネット経由で提供されるサービスであるSaaSをクライアントリレーションの文脈で「嘘のない、最高のビジネスモデル」と斬新な切り口で称し、解説している。

以下は記事のリード文の引用。

昨今よく耳にする「SaaS(Software as a Service)」。直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」、つまりは「インターネット経由で提供されるソフトウェア」のことだが、その真価を説明できる人間がどれほどいるだろう。
SaaSは嘘のない、最高のビジネスモデル」と語るのは、急成長を遂げるSaaS企業のひとつであるFORCAS(ユーザベースグループ)代表の佐久間衡氏だ。
今や、ベンダーから提供されるSaaSの種類も徐々に増え、技術革新、利便性向上を背景として、一般企業でも多くのSaaSを利用するようになってきた。では、SaaS企業はどのような未来を目指し、またこのタイミングで私たちがSaaS企業でキャリアを積むことに、どんな可能性があるのか。最新のSaaS事情を紐解いていく。

newspicks.com

 

拡大するクラウドサービスの利用率

私も新卒で入社した会社がSaaS型のクラウドサービスを運営する会社であったので、この領域には詳しいと自負していたが、一方で業界を離れて数年経つので最新の業界動向には疎くなっていた。そんな中、記事に出てきた「クラウドサービスの利用状況の推移」のグラフに、ここまで導入が進んでいるのかと、とても驚いた。

https://contents.newspicks.com/news/3988357/images/5217028

平成26年ではクラウドサービスを利用している企業が38.7%, 今後利用予定の企業が15.9%だったのに対し、30年には前者のクラウドを利用している企業の割合は58.7%まで伸びている。後者は14.1%なので、利用予定企業が利用を開始しただけでなく、これまで利用に否定的だった企業のマインドも変わりつつあるということだ。
実際、今後利用する予定がないorよく分からないという会社の合計値は45.3%から5年間で27.2%まで激減している。 

また肌感覚としても、割と保守的に見える会社でも、意外と社内ファイル共有にクラウドストレージを使っていたり、当たり前のように顧客管理にクラウドサービスを利用していたりと、クラウドサービスの営業を行っていた前職時代よりも、クラウド利用率は一段と高まっていると感じている。

 

そもそも クラウドサービス / SaaS とは?

さて、クラウドとは、SaaSとは何かをすっ飛ばしていたが、簡単にそれらがどういうものか説明したい。

具体例から入ろう。このはてなブログも、いわば一種の SaaS である。ユーザーはサーバの契約・構築・運用は不要でいきなり利用できるし、セキュリティ対策や新機能追加も運営元が自動的に行ってくれる。ユーザーはただアカウントを作成すれば、サービスとしてソフトウェアを利用することができる。他に分かりやすい例であれば、Gmail / Yahoo!メール や DropBoxEvernote なども SaaS と呼ばれるものの一種である。

 

つまり、従来であれば高いお金をかけて自分たちで導入・構築しなければならず、高機能を有したソフトウェアは、個人であればスキルの高い人は自作するか、そうでない人は高いパッケージサービスを購入するかしかなかったし、法人であれば大企業しか持つことができなかった。それが、サブスクリプション方式で必要な分だけ利用できるようになったのがクラウドサービスであり、SaaSである

なお、世界で最も成功している SaaS 運営企業であるセールの CEO マーク・ベニオフは「真のクラウドはソフトウェアの民主化だ」と述べている。クラウドサービス事業者が先行投資し構築したソフトウェアを割り勘で利用できるので、中小企業でも大企業並みのシステムをローコストで利用できるようになった。これがマークベニオフの言うところの「ソフトウェアの民主化」だと私は理解している。

こちら興味のある方には、是非下記のご一読いただきたい。

lightingup.hatenablog.com

 

SaaS とは「嘘のないビジネスモデル」である

さて元記事の佐久間氏は、さらに面白い解釈を加えている。

SaaSクラウドサービス×サブスクリプションと定義し、ソフトウェアを売って終わりではなく、むしろ顧客に継続して利用し続けてもらう必要があるため、「ユーザー(サービスを使う側)にとっての価値」と、「ベンダー(サービスを提供する側)にとっての価値」だと論じ、ベンダーとユーザーが長期的な関係を持ち、最適なサービスを一緒に作り続ける『嘘のないビジネスモデル』だと説明している。

https://contents.newspicks.com/news/3988357/images/5217013

この考え、元クラウド事業会社に在籍していた身としても私はおおいに同意するし、かつこれからの社会においてこそより光るビジネスモデルではないかと考える。

例えば、変化の激しい時代にどのようように対応していくかという外を向いた視点や、自社の存在意義をどのように社員に浸透させるかという中を向いた視点、どちらに対しても「嘘のないビジネスモデル」は大きなヒントになるのではないか。

 

以前オーセンティックリーダーシップについての記事を書いたが、

lightingup.hatenablog.com

 これからは個人だけでく、企業もオーセンティックであることが、顧客から選ばれ続けるための条件になるのではないかと思うし、そうなるために必要な取り組みは、SaaS企業として成功するための取り組みと一致するところが多いのではないかと感じる。

 

乗り越えるべき壁

一方で、記事の中では(ユーザー側ではなうビジネス事業主側が)SaaSビジネスモデルに移行することは難しいと記載している。

とはいえ、歴史の長い企業がSaaSに変革するのはかなり難しい。なぜなら、単なるビジネスモデルの変革ではなく、企業文化の変革を必要とするからだ。
「だからこそ、まずは多くの企業に、たくさんのSaaSを使ってほしい。実現したい未来をユーザーと共有して、一緒にサービスを作っていく醍醐味を体感してほしい」と佐久間氏。

これも同意だ。

クラウドサービス事業会社で営業をしていた際、自分たちは小さなスタートアップだったので直販以外に代理店(SIer複合機や回線を販売している営業会社) 経由の営業も行っており、新規代理店の開拓や既存代理店の深耕も営業マンの大事なミッションであった。

が、代理店経由での販売を増やそうとしても、なかなか取り扱ってもらえない。これにはいくつか理由があるのだが、その1つとして、SaaSのようなサブスクリプション方式の商材が従来の営業スキームとマッチしていない、という背景があったと理解している。

例えば、パッケージで販売すると1回当たり100万円、しかしSaaSで売ると月額2万円にしかならない、、、とすると営業マンにSaaSを積極的に販売しようというインセンティブが働かないのである。そのような従来の評価方法やKPIだと、クラウドを売っていこうと大号令したとしても、現場は変わらないのである。

 

なお前職の営業成績の考え方は、売上を「ユーザーが1年間利用した場合の利用料」と定義しており、例えば月額2万円の契約であれば売上は24万円と社内計上していた。また契約翌年以降も利用し続けてもらえることが前提であったので、1年間の目標売上数は同規模の他の会社の営業マンよりも低く設定されていた。そうすることで、ショットで大きな金額の入るソフトウェアやハードを販売するのではなく、月額制のSaaSの販売の販売を推進できるようになっていた。

また相性良く本数を多く打ってくれた代理店さんは、インターネット回線などもともとランニングビジネスを展開している営業会社であったので、恐らく上記仮説は大きく外してはいないと思う。 

 

ただしサブスクリプションモデルを推進する組織に変化していくにはもちろん営業の評価制度では足りず、例えばどのように既存顧客とリレーションを構築し続けるかという営業だけでなくサポートやマーケティングを巻き込んだ視点や、ユーザー体験をスピーディーに向上させていくアジャイル形式の採用という開発視点など、検討すべきことは多岐にわたると思う。1つ言えることは、これまでの機能重視のビジネスモデルでは通用せず、顧客中心のビジネスモデルへの展開が必要だ、ということだ。

 

正直、このような転換は図体の大きな会社ほど難しい。故に、ベンチャー企業であっても大企業を脅かす存在になれる余地が十分にあるし、主に大企業がクライアントであるコンサルティングファームコンサルタントとしては、どのポイントをテコにしてクライアントを変革していくべきかということを考えなければならないなと感じている。

 

ちょっととりとめのない形ではあるが、この辺で。

ではでは。 

 

少し追記

norihiko_matsumotoさんから以下コメントをいただいた。

最新の SaaS(Software as a Service)事情 - 点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

当社もSAAS扱ってます。ただ長い目で見るとオンプレがコストだけは安く見えるんですよね。 最初のキャンペーンで騙させるのですが、アドビのソフトを使うのに色々入ってしまって月額6000円ぐらい。買い切りの方が安い

2019/07/16 19:56

b.hatena.ne.jp

これはまさにクラウドの注意点だ思う。よく月々の支払いは安い、、、と謳われるが、よくよく比較してみると、そうでないこともままある。

なぜかというと、それまでの社内運用だと例えばセキュリティをそこまで重視していなかったり(=コストをかけていなかった)、ずっと古いシステムを使っていたのでそもそもコストがほぼ発生していなかったり、内部の人件費で賄えていたのでキャッシュアウトがなかったり、など理由は様々である。

よって、クライアントに導入をすすめるベンダーや、内部で稟議書を通そうとする担当者は、SaaSの利点をしっかりと理解しコストを上回るメリットを見せていかなければ導入まで至らないのでご注意あれ。

なお私は営業時代、以下の方法で必要性訴求していた。

lightingup.hatenablog.com

 

ちなみに、norihiko_matsumotoさんのブログは、長い業界歴に裏付けされた良質な記事がとても多いのでお勧めです!

www.norick-matsumoto.com