点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の勘所と活用方法

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPMというビジネスフレームワークをご存知だろうか。

ボストンコンサルティングが提唱しGEが活用したことで非常に有名になったフレームワークなので、名前を聞いたことがある、またはどういうものなのか知っている、という方も多いのではないだろうか。

 

簡単に説明すると、主に複数事業を運営する企業が事業の選択と集中の意思決定の道具として使われるツールであり、縦軸「市場成長率」と横軸「相対的な市場シェア」のマトリックスで自社の事業を整理する方法である。

http://www.rnac.ne.jp/~shinta/jisedai/ppm.jpg

各事業は市場成長率の高低とシェアの高低の4マスのいずれかにプロットされることになるが(なおバブルチャートにして売り上げを合わせて見るケースが多い)その4マスは「花形」「金のなる木」「問題児」そして「負け犬」と呼ばれる。

それぞれの特徴は以下の通りである。

  • 花形:市場の成長率が高く、自社のシェアも高い事業がプロットされる領域。市場が成長段階にあり、かつ自社の優位性が高いため社内外で「花形」として脚光を浴びる事業になる。一方で、成長性の高い市場であるため、シェアの維持・拡大に莫大な費用がかかり、キャッシュインが多い代わりにキャッシュアウトも多くなる
  • 金のなる木:市場の成長率は低いものの、自社のシェアが高い事業がプロットされる領域。自社のシェアが高いためキャッシュは潤沢に流入し、かつ市場はすでに成熟段階にあるため新たな投資資金はそれほど必要ではなく、文字通りキャッシュが溜まる稼ぎ柱
  • 問題児:市場の成長率は高いものの、自社のシェアは低い事業がプロットされる領域。シェアが低いのでキャッシュインが少ない一方で、市場が成長期にあるため多額の投資が求められる。新規事業は通常この領域からスタートする
  • 負け犬:市場の成長率が低く、さらに自社のシェアも低い事業がプロットされる領域。キャッシュアウトも少ないが、多くのキャッシュインや成長も見込めず、早期撤退が第一の選択肢となる

 

さて本日はこのPPMを題材に3つ話をしたい。

 

PPMは使えない?

このPPMは使えない、という話をよく聞く。またフレームワークが教科書的に紹介されている書籍も増えPPMを知っているという人も多いかと思うのだが、どう使えばいいのか分からない、という人も多いのではないだろうか。

そのような意見の出る理由は、PPMを使うことが目的となっているからである。

PPMは、なにも特定の事業を「花形」「負け犬」と分類することが目的ではなく、分類した結果を踏まえて次のアクションを討議し、意思決定するためのツールである。この目的意識がないと、ただ単になんとなく分かっていた各事業部の立ち位置が明確化されただけで、何も変わらない。場合によっては「負け犬」と呼ばれた事業部の人たちのモチベーションが下がるだけ、という結果になってしまう。

なお求められる意思決定の質から考えると、PPMは事業部長/事業戦略マターではなく、全社戦略経営マターであることもポイントだ。負け犬の事業部から撤退するべきか、花形に投資するためにどこに事業の投資を抑えるべきか、という議論が求められるわけなので、「プロットされる側」が用いるツールではないという点も、PPMが誤解される理由の1つであろう(ただし後述するが、事業部無いでもPPMの考え方を活用することはできる)。

なおこの「フレームワークは目的ではない」ということは、PPMに限らずすべてのフレームワークに当てはまることである。興味のある方は以下も参照いただきたい。

lightingup.hatenablog.com

 

 

「花形」であるがゆえの苦労と全社戦略の勘所

「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」と聞くと、誰しも「花形」になりたいと思うのでは無いだろうか?成長していてシェアもあり稼ぎも多く、会社を牽引するみんなの憧れの存在。事業部ではなく企業という側面から見ると、今であればメルカリとかLineとかTikTokを運営するByteDanceなどをイメージすると良いかと思う。そういう会社に転職して働きたい、と思う人も多いのでは無いだろうか。

しかし市場が成長し続けるということの注意点にも目を向けたい。市場が成長しているということは、企業にとっては市場の成長を上回る成長をしなければ自社のシェアが縮小してしまうということだ。裏を返すと、成長率の良し悪しは市場から判断する必要があるということだ。

例えば自社の成長率が25%だったとする。この数字を高いと見るか低いと見るか。答えは、「成長率だけだと分からない」だ。もしも市場成長率が5%であれば、自社の成長率25%は驚異的な成長率だ。しかしもしも市場成長率が50%だとすると、25%の成長率ではシェアが落ちているため、褒められた数値ではなくなってしまう。

 

この観点を持ってPPMを眺めると、ストーリーが生まれて、全社戦略が面白くなる。

全社戦略とはリソースをどう配分するかなので、もしもすべての事業が「花形」だとすると、すべての事業がキャッシュアウト優位なので事業を続けられなくなってしまうか、すべてに中途半端な投資を行いすべて「問題児」に戻ってしまう。なので、資金を外部調達するか、「花形」だとしても戦略的撤退や売却をするなどしなければならない。

ではキャッシュアウトの少ない「金のなる木」だけでよいかというとそれも間違いで、成長の止まった市場はどんどん市場が小さくなっていくので、大きな金のなる木にあぐらをかいていると、今はいいかもしれないが10年後20年後に苦しい展開となる(今の日本企業の多くが貧窮している理由の1つがこれだ)。

つまり企業がすべきことは、金のなる木で得た資金を花形に回してさらなるシェア拡大を狙う、または問題児に投資してそれを次の花形に育てることでり、これが全社戦略の建て方の基本なのだ。

なおこのあたりは実例交えての方がわかりやすいと思うので、興味のある方は以下のリンクを参照あれ。スライドのP18以降がキャノンのPPMが時代別に整理されており、各事業がどのように成長(または衰退)していったのかがよく分かると思う。

slidesplayer.net

 

PPMの縦軸横軸は自由に決めてよい

ここまでの説明でPPMに興味を持ってもらえたら幸いなのだが、しかし上記に記載した通り、PPMは全社戦略用のフレームワークなので、一般のビジネスマンには関係のないフレームワークである。偉そうに言っているが、コンサルタント歴数年の私も、実際のプロジェクトでPPMを使ったことはまだない。

ではPPMは多くの人にとって不要なのかというと、これは非常にクリアーな考え方なので、使い方を工夫して、自分に関係のある領域に対して活用すればよい

 

例えば事業を運営している側であれば、商品をプロットしてみてはどうだろうか。

ブロガーであれば、自分の記事をプロットしてみてはどうだろうか。

 

その際、縦軸横軸が「市場成長率」「相対的な市場シェア」である必要性はまったく無い。例えば特化ブログのブロガーなら、「ブログの趣旨との親和性」「独自性」の2軸に対し、記事ごとのPV数のバブルチャートを作成してみる、などどうであろうか。

それを眺めれば、自分のブログの特化している方向性が正しいのかどうか、どういう記事を書くべきなのかの意思決定を客観的に行えると思う。

 

軸は自由に作成すればいいが、似た性質の軸だと面白く無いのと、ある程度の客観性があること、そしてプロットした結果が意思決定に繋がるかどうかがポイントだ。

 

また、個人のスキルをプロットし、自己のキャリアを見つめるフレームワークを作成するのも面白いと思う。

自分が得意とすることが市場の中でも優位性があるのかどうかというのは、まさに市場成長率を事業の成長率と同じ話であるので、きっとよい気づきを得られることであろう。

私も、時間があるときに「自己のキャリア版PPM」を作成してみようと思う。

 

なおPPMに関しては以下の書籍がわかりやすいので、興味のある方は手にとてみてください。

全社戦略がわかる (日経文庫)

全社戦略がわかる (日経文庫)

 

 

ではでは。