点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

書評:「Insight ー いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」が教えてくれたこと

巻末付録まで含めると500ページを超える大作「Insight ー いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」を読み終えたので感想を。

帯に書かれているキャッチコピーは、

『成功と失敗を左右する、最も重要なのに最も見逃されている要素、「自分を知る力」』

『仕事での成果や良好な人間関係、その鍵は「自己認識」。自分に対する思い込みを乗り越え、気づきを行動に変える方法とは?』 

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就活では「自己分析」をやらされるが、それ以外ではなかなか自分自身を振り返る場はないのではないか。しかし、誰しもが必要とは思っているであろう「自分を知る」ということ。

筆者は「自分を知る力=自己認識力」について次のように主張している。

「自己認識は21世紀のメタスキルだ」と言うまでにいやっや。本書を読み進めれば分かるように、現在の世界における成功にとって極めて重要な各所の力、心の知能指数、共感力、影響力、説得力、コミュニケーション力、協調力などは、すべて自己認識がもとになっている

本書では、このように重要な「自己認識」について、豊富な具体例とともに、自己認識とは何かと、自己認識力を高めるために何が必要か、どうすればよいのかをかなり詳しく掘り下げて解説している。 

自分自身をよりよく、そして何よりも正しく知りたい、と思っている人にはオススメの一冊である。

 

さて、本書を読み進める中で特に目に止まったフレーズをいくつか紹介していきたい。

 

この世には二種類の人間が存在する。自己認識があると思い込んでいる人間と、実際に自己認識している人間だ

まず分厚い本書の第1章の長い本書の初っ端に書かれていた、次の指摘。これは痛快な指摘であるとともに、この一説によって、本書への興味がぐっと高まった。

私は最近ベストセラーの『EQ2.0 - 「心の知能指数」を高める66のテクニック』を読み、この10年間で心の知能指数が全体的に向上したと知って驚いた(EQは自分や他者の感情を探り、理解し、コントロールする能力と定義され、この指数が高い人の方が成功し、障害に直面しても耐性があり、ストレスに強く、関係を構築するのがうまいと言った傾向にあることが無数の研究で明らかになっている)。しかし組織心理学者として働く私の経験は、この発見にそぐうものではなかった。少なくとも見聞きした範囲では、EQの低さに端を発した問題が、近年減少どころか増加しているように感じていた。

(中略) 

たしかにこの調査は実に50万人という膨大な人数を含むものだったが、彼の出した結論は調査した人びと本人の「自己評価に基づくもの」だった。この発見は言い方を変えて、分が考える自分と、他人が見る自分の差異が大きくなってきているとする方が、遥かに現実に近い。つまり、EQの上昇に見えたものは、自己認識の低下を意味している可能性が高いのだ。

(中略)

結局のところ、この世には二種類の人間が存在する。自分には自己認識があると思い込んでいる人間と、実際に自己認識している人間だ。

自分自身を振り返ってみても考えさせられる一節だ。確かに、「自分は自己認識力が低い」と言う人はなかなかいないであろう。筆者の言う通り、自己認識があると思い込んでいる人か、本当に自己認識のある人しかいないのかもしれない。 

 

内的自己認識と外的自己認識に相関関係はない

さてこの自己認識には2つの種類があるらしい。1つは内的自己認識、もう1つが外的自己認識だ。

  • 内的自己認識:自分自身を名買うに理解する力のことを指す。それは自分の価値観、情熱、野望、理想とする環境、行動や思考パターン、リアクション、そして他者への影響に対する内的な理解のこと
  • 外的自己認識:外の視点から自分を理解すること、つまり周りが自分をどう見ているかを知る力のこと

 そしてこの2つについて、興味深く、鋭い洞察が書かれている。

内的自己認識ができる人は、外的自己認識もできていると想像するのは自然なことだ。しかし不思議なことに、私の研究でも他の研究でも、この2つにはなんの相関関係も見られないことが多かった。要するに、真の意味で自分を知るには、自分自身を知ると同時に、自分がどう見られているかを知る必要がある

これも非常にインパクトのあるメッセージではないだろうか。仮に「自分では自分のことを分かっている」と思っていたとしても、それが他者から見た自分とイコールだとは限らないということだ。
しかも上記の通り、自己認識できていると思い込んでいる人も多い状況なので、自分を正しく知り、かつ自分がどう見られているかも正しく知っている人は、いったいどれだけいるのだろうか。なお本書では、そのような稀有な人たちのことを「ユニコーン」と読んでいる。

 

自己認識の定義と、大切なこと

本書では、自己認識を次の通り定義し、

自己認識とは、自分自身と、他人からどう見られているかを理解しようとする意志とスキルのことだ。大人になってから自己認識に劇的な向上があったユニコーンたちは、自己認識に欠けた人々には見られない特徴的な7種類のインサイトを持ち合わせていることを発見した。ユニコーンたちは自身の「価値観」、「情熱」、「願望」、「フィット」、「パターン」、「リアクション」、「インパクト」を理解していた

本書ではこの7つの要素を「7つの柱」と呼んでいる。

  • 価値観:自らを導く行動指針
  • 情熱:愛を持って行うもの
  • 願望:経験し、達成したいもの
  • フィット:自分が幸せで存分に力を尽くすために必要な場所
  • パターン:思考や、感情や、行動の一貫した傾向
  • リアクション:自身の力量を物語る思考、感情、行動
  • インパクト:周りの人への影響 

いずれも、「なんとなく」大事だということは分かるかと思うし、例えば「自分の価値観は分かっている」「自分が何に情熱を持っているかは当然知っている」という人もいることだろう。

しかし筆者は、大事なことはこの7つの柱について、自分が知るだけでなく、周囲からどう見られているかも知ることだと説いている。

7つの柱すべてにとって、一番大切なのは内側の視点と外側の視点の両方を持つことだ。それができて初めて、自分自身のことや、自分がどう見られているかを真に理解することができる 

 

いつインサイトを得ることができるのか

この2つのバランスを取ることはもちろん難しいが、その機会は実は生活の中にあふれているらしく、ユニコーンたちはその機会を巧みに捉えているそうだ。そのようなイベントは、アラームロックイベント(自分にとって重要な真実に目を開かせてくれる出来事)と呼ばれ、主に3つのタイプがある。

  1. 新しい役割/新しいルール:仕事や人生で新しい役割を求められたり、新しいルールに則ることを求められた時、私たちは安心した居心地の良い状態から一歩踏み出すことになり、いつも以上のことが求められるため、普段以上に自分を見つめることができる
  2. 激震:その出来事の大きさや重さから、自分が芯から揺るがされる出来事があった場合、その出来事はあまりにも衝撃が強いものであるため、私たちは自分自身についての真実に向き合わざるを得なくなる
  3. 日々のインサイト:驚くべきことに、ユニコーンたちが最も大きなインサイトを得たと報告した状況は、より日常的な場面である事の方が2倍も多かった。小耳に挟んだ会話や何気ない一言、さらには予期せぬ感謝の言葉などがきっかけで、突然自分の振る舞いを新たな観点から見ることがdけいるようになったという

1つ目と2つ目は、自己成長のために必要とよく言われる「コンフォートゾーンから抜け出す」という考え方と通じるところがあると感じる。

www.lifehacker.jp

しかし、そのようなイベントも大事だが、3の通り、気づきを得ることができる人は、日常からより多くの気づきを得ているとのことだ。

さて、これをどう受け取るか。自分は日常は平凡すぎてそんな気づきなんてなかったと感じるのか、それとも自分の日々の観察力が足りなかったと感じるのか。あなたはどちらであろうか。

 

ちなみに、ここまででまだ冒頭から79ページまでをいくつかピックアップしたにすぎない笑。
このような感じで新しい知識や、既存の考え方を揺さぶられる(=それ自体がアラームロックイベントだ)記載に溢れている本書であるが、このペースでまとめていくと数万字になってしまうので、ここからは私が一番興味深かった内容を紹介したい。

具体的には、内的自己認識の方法論だ。

 

「考える」=「知る」ではない

就活の自己分析もそうだが、自分を知るために多くの人は自分がどんな人間か考えると思う。しかし筆者によると、自分について考えるという行為は、自分について知ることに何の関係もないそうだ。それどころか、内省に時間をかければかけるほど、自己認識が低下したケースもあるそうだ。

これは驚きの指摘である。内省が自己認識を生むという前提は迷信だと筆者は主張しているのである!

しかし厳密には、筆者は次の通り述べている。

内省の問題は、その行為自体に効果がないのではなく、多くの人がまったく間違った形で実践しているということだ

 筆者はこの間違った考えを、次の通り4つに分類している。

 

1. 南京錠のかかった地下室という迷信(あるいは私たちが自分の無意識を掘り起こせない理由)

無意識とは心の奥深くに隠れているという考えだ。セラピストのカウンセリングを思い浮かべるといいだろう。フロイトは南京錠の鍵を見つければそれを知ることができると考えたが、最新の研究では、人の無意識は南京錠のかかった扉というよりも、密閉された保管庫に秘められているようなものとされているらしい。つまり、どんなに頑張って考えても、分からないそうだ。

ではどうすべきかと言うと、見つからない自分探しをするのではなく(往々に自分自分探しが目的となる。。。)、インサイトを得ることを目的にするのが良いそうだ。

内省を活用する第一原則は適切なアプローチを選択することが。内省というプロセスに重きを置くのではなく、インサイトを得ることに焦点を置いたアプローチだ。

セラピーで内省しすぎるのが危険なのは、自分を行き詰まらせるような物語を作り出してしまうからだ。言い換えれば、自分がどれほど辛いかを言葉にしようとするよりも、そこから何を学び、どう前進できるかに焦点を置くべきだということだ

これは含蓄のある教えではないだろうか。それが必要だと思って内省しすぎて塞ぎ込んでしまう。でもそれは本当は不要だと言っているのだ!

この一節には、正直かなり救われた。

 

2.なぜか「なぜ」を考える

これも、身を軽くしてくれる教えだ。一般的には、なぜを考えるのは非常に大事なことだと教えられる。自己分析でもそうだろう。しかし筆者は次のように主張している。

人がなぜと問うとき、つまり、自分の思考、感情、行動の原因を検証する時、一番簡単でもっともらしい答えを探してしまう。でも悲しいかな、いったん答えを見つけると、たいていそこで他の選択肢を見ることを止めてしまう。自分が見つけた答えが正しいか間違っているかを確認する方法など持っていないのに。

ではどうすればいいのか。筆者は非常にシンプルかつ便利なツールを紹介してくれている。「なぜ」ではなく「何」という問いを持つのが良いそうだ。

内的自己認識においては、「なぜ」ではなく「何」というシンプルなツールが、かなり大きな効果をもたらし得る。

「なぜ」の質問は自分を追い詰め、「何」の質問は自分の潜在的な可能性に目を向けさせてくれる。「なぜ」の質問はネガティヴな感情を湧き起こし、「何」の質問は好奇心を引き出してくれる。「なぜ」の質問は自分を過去に閉じ込め、「何」の質問はよりよい未来を作り出す手助けをしてくれる。

何か気分の変化が会った時は(=アラームロックイベントに遭遇した時は)「なぜこんな風に感じているのだろうか?」と考えるのではなく、「自分は今何を感じているのだろうか?」と問いかけ、自分自身の理解に務めるべきだという教えである。

 

この2つの教えは私自身にはこれまで考えていなかったような教えであり、大きな発見である。誇張して言えば、これまでの自分の常識がひっくり返されたようなものだ。

 

自分自身を省みる時は「なぜ」「なぜ」と考え通すのではなく、目的を持って、そして「何」を考える。これはすぐに実践していこうと思う。

 

 

ということで、かなりピンポイントな紹介であったが、私としては非常に大きな発見のあった一冊であった。どのポイントが琴線に触れるかは人それぞれだと思うが、興味を持った方はぜひ手にとってみてもらいたい。

insight(インサイト)――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力

insight(インサイト)――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力

 

 

また強みを発見するには、フィードバック分析というドラッカーの教えと、ストレングスファインダーというWeb診断テストもおすすめなので、興味のある方は以下もご参照いただきたい。

lightingup.hatenablog.com

 

ではでは。