コンセプトメイキングとストーリーがすべての出発点だという結論にとあるレストランで至った
良質なお肉をひたすら食べられるお店に行ってきました。
こんなお肉がどんどん出てきて、最後の方は一緒にいた人たちみんなもう食べられないという状態に。
たらふく食べてコースで6,500円。これはリピートしたくなります。
そして何よりも、肉そのものと言いますか、美味しいお肉をお客さんに提供することにこだわっているお店の姿勢をとても好きになりました。
飲食店のセオリーに反しているお店
このお店、通常の飲食店のセオリーからいろいろと逸脱しています。
まず、店の場所が分かりにくい。
駅から遠いわけではないのですが、裏路地のさらに裏と言いますが、Googleマップ+GPSがないと絶対に行き着かないような立地。
「飲食店は立地が全て」と言う人もいるぐらい、飲食店にとっては立地条件は成功に向けての大事なファクターですし、ですので多くのお店が高い賃貸料金やテナント料金を支払ってでも、多くの人の目につく条件の良い場所に出店しようとします。でもこのお店はまさにその逆を行っていますね。
他にも、お店の内装も過度にこだわるのではなく、よく言えばシンプル、悪く言えば小綺麗なだけ。席もちょっと狭目。また店員さんの人数も少な目。
そこから感じる「肉」へのこだわり
立地や内装や従業員。これらはすべてコストに直結するものです。良い立地に出店すれば集客は見込める可能性高まるかもしれませんが、もちろん家賃が大きくのしかAかりますし、内装もそう、人件費もそう。
しかしこのお店はそういうところにはコストを極力抑えようとしていました。それはなぜかというと、ひたすらに「良い肉」を仕入れることに心血を注いでいるからでしょう。
一般的には、飲食店の食材の原価は30%が適正と言われています。1000円のメニューなら300円の食材で作らなければならないということですね。
その比率を下げすぎると品質の低下が下がり結局顧客が離れることになりますし、顧客満足どを高めようとして原材料にお金をかけすぎると今度は経営が厳しくなる。そのバランスの均衡したところが30%ということなのでしょう。
しかしこのお店、出てくる肉の量も多いし、調理法が良いのかもしれませんが味もとても素晴らしい。それを6,500円で実現するには、30%の原価率では無理でしょう。肉の味は調理法よりも肉そのものの質に影響される要素が大きいですから。
ということは、このお店は原価率を高めても経営ができるように、その他のコストを引き上げる要素を抑えるために、飲食店のセオリーの逆を選択しているわけですね。
そしてそれは美味しいお肉をお客さんに提供するという確固たるコンセプトがあるからこそ意思決定できるのでしょう。
そのこだわりは他からも感じることができ、例えば料理は6,500円のコースしかなかったりだとか、サーブ方法もハムやサラダなどの冷たい料理は常温の取り皿だったものが焼いたお肉用には温めた取り皿になるという心遣いとか。
コンセプトを中心にその他の物事が決まり、それが有機的に組み合ってお客さんにコンセプト通りの価値を提供できているという、とても稀有な事例だと美味しいお肉を頬張りながらしみじみと感じてしまいました。
競争優位性は差別化から生まれる
このお店が、これらを意図して行なっていたのか、結果論としてそうなったのかは分かりません。ですがこれは立派な差別化戦略です。
似た事例と考え方を紹介します。
一橋大学ビジネススクールの楠先生は、ベストセラーの著書「ストーリーとしての競争戦略」の中で、「クリティカル・コア」と名付け次のように説明しています。
「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」、これがクリティカル・コアの定義です。
第一の条件は、「他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている」ということです。つまり「一石で何鳥にもなる」打ち手です。
第二の条件は、「一見して非合理に見える」ということです。ストーリーから切り離してそれだけを見ると、競合他社には「非合理」に見える。しかし、ストーリー全体の中に位置づければ、強力な合理性の源泉になる。クリティカル・コアの特徴はこの二面性にあります。
ストーリーとしての競争戦略 ?優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
- 作者: 楠木建
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例えば、デルの「自社工場での組立て」、サウスウエスト航空の「ハブ空港は使わない」、アマゾンの「自前の物流センター」、スターバックスの「直営店」などはすべて「クリティカル・コア」です。
良い戦略にはストーリーがある。
そのことをあたらめて気づかせてくれるお店でした。
ちなみに、そんなことをお肉を食べながら滔々と語っていたら、一緒にお肉を食べていた人たちからはキモがられてしまいました笑。しかしこういう思考をしてしまうのは、経営コンサルタントとしての一種の職業病なのでしょうか。。。
そして最後に。さんざん引っ張りましたが、今回訪れたお店は神田・三越前エリアにある肉友というお店。人気すぎて超絶的に予約が取れないことで有名な吉祥寺の肉山というお店がプロデュースしているそうです。
肉友の方がまだ予約は取りやすいそうなので、美味しいお肉を食べたい人、または見事な差別化を生んでいるコンセプトやストーリーを体感したい人は、ぜひ食べにいってみてください。
ではでは。