企業は「転勤したくない若者」とどう向き合うべきか
"カガクでネガイをカナエル会社"とおぼしき会社がネット上で炎上していますね。
理由はご存知の方も多いかと思いますが、育休取得2日後に転勤の事例が出て、会社と交渉するも取り合ってもらえず、そのまま退職となってしまった男性社員のエピソードが発端です。
詳しくは下記のまとめや元社員へのインタビュー記事をご覧ください。
今回のカネカに限定した話ではありませんが、転勤したくない若者は確実に増えているのではないでしょうか。
実は僕の妻も、婚約期間中に会社から転勤の辞令を出され、悩んだ結果退職を選んだ経験の持ち主です。
そういった身内の経験もあるということはありますが、以下の2つの理由から個人的には「転勤したくない」若者に対し、企業はもっと柔軟に対応すべきだと強く思っています。
- 若者の考え方や社会のあり方が変わってきた今日において、昭和の企業の成長を支えてきたシステムが時代に合わなくなってきている
- 保守的にその旧態依然なシステムを維持することが、結果的に企業のためにならないケースが増えてきている
今回は、 この問題について深掘りして考えていきます。
転勤を拒否して退職を選んだ妻の話
僕の妻は連結1万人・売上1兆円を超える老舗の一部上場メーカーの本社スタッフ(正社員総合職)として働いていました。
その会社は官僚のようにお堅い社風で、社員も新卒からずっといるプロパーが大半を占める、いわゆる日本的な大手企業。因みに業界内では昭和時代はメイン商材の売り上げ圧倒的シェア1位だったのが、平成に入り独創的な発想の2番手に逆転されトップの座を明け渡している状況です。
そして妻が言うには、仕事自体は超絶ホワイトであるけれども古い経営体質に嫌気がさす若者が多く、退職する若手社員も増えていたとのこと。また会社としても、若手の離職率の高さに課題意識を感じていて、経営層と若手社員との意見交換会を設けるなどして対策をしようとはしていたそうです。
さて遡ること数年。まだお互い独人時代。僕は妻にプロポーズし了承を貰え、その後妻も会社に対し「これから結婚の予定なので転勤はしたくない」とかなり強いトーンで上司に希望を伝えていたそうです。
が、3月の定期異動の発表で、地方転勤の内示が出てしまいました。妻も会社に掛け合いましたが「転勤を拒むなら辞めてもらいしかない。2〜3日以内には決めて欲しい」と言われ、夫婦で相談した結論として、妻が会社を辞めることになりました。
身内でこういった話もあったため、今回の話は僕にとって人ごとではありません。
若者の価値観は大きく変化してきている
つい先日、コンサルティングファームのデロイトトーマツコンサルティングがミレニアル世とその下のZ世代についての意識調査結果を発表していました。
※ミレニアル世代:1980年代半ばから2003年の間に生まれた世代を指す語。いわゆるデジタルネイティブであり、社会のあり方を変容させる世代として注目されている
特徴的だったのは、2年以内に離職すると思っている人の割合が、ミレニアル世代では49%、Z世代に至っては64%もあること。
5年以上勤続すると考えている人はミレニアル世代で25%、Z世代はなんと10%です。
またグローバルとの対比で印象的だった項目は、自分の選んだキャリアで幹部を目指す人がグローバルのミレニアル世代で58%だったのに対し、日本では半分以下の26%とのこと。
これらの調査結果より、ミレニアル世代やZ世代と呼ばれる若者たちの会社への帰属意識は弱くなっていることが見て取れます。そしてそれは多くの「おじさん世代」が考えるよりも遥かに急激に弱くなってきているのではないでしょうか。
また別の調査も見てみましょう。リクルートが2019年卒の学生に対して行った調査結果です。
2019年卒学生に対して「就職先を確定する際に決め手となった項目」を尋ねたところ「自らの成長が期待できる」が47.1%と、約半数が回答する結果となりました。労働市場では「グローバル化やテクノロジーの進化による競争激化」によって、企業寿命が短くなる一方で、「人生100年時代」「職業寿命の伸長」という現象が生じ、「定年まで一社に勤め上げる」「新卒で入社した企業は一生安泰」という志向にも変化が見え始めています。学生のコメントからは、安定志向がうかがえるなか、「将来が見通しづらい社会では自らの成長こそが安定に繋がる」という声が多く挙げられました。こうした背景から、「入社の決め手」として、将来のキャリアにつながる「成長」を挙げる学生が多いと考えられます。
加えて、男女別や業種別に見ると、学生の選択肢は「一律ではなく多様」であることが見受けられました。特に女性においては、将来のライフイベントがキャリアへ与える影響が大きいため、長く働き続けるうえでも、入社の決め手となった項目が男性よりも多い事が見て取れます。
「就職先を確定する際に決め手になった項目」について男女別にみると、女性は「希望する地域で働ける」が46.4%で最も高く、次いで「自らの成長が期待できる(44.8%)」 「福利厚生(住宅手当等)や手当が充実している(43.6%)」の順であった。
男性は「自らの成長が期待できる」が49.0%で最も高く、次いで「福利厚生(住宅手当等)や手当が充実している(32.8%)」「希望する地域で働ける(28.9%)」の順であった。
ここからもいろいろ読み取ることができますね。
変化の激しい時代だからこそ、逃げ切りのできる世代と異なり若者は、会社に依存せずにそれぞれの目指すキャリア/ライフスタイル実現したいという志向が高いということではないでしょうか。
企業側の受け入れ態勢も変化している
「総合職で入社しているのであれば、転勤があることは仕方がない」
「大手ではよくある話」
「転勤が嫌なら最初から地域職として入社するべき」
「ただの感情論、急な転勤の辞令に違反性はない」
こういう意見もありますね。もっともだと思います。
しかしこれはあくまで高度経済成長時代から受け継いできた古き良き日本のシステム前提の話ではないでしょうか。
「御恩と奉公」、つまり会社が「終身雇用」「年功序列」「解雇規制」という制度で従業員を手厚く守る代わりに、従業員はその御恩に応えるために「会社優先」「長時間労働」「転勤許容」で奉公する、という高度経済成長を支えてきた日本特有のシステムです。
一方で、先月にトヨタの社長が「終身雇用を守っていくのは難しい」と発言し話題になりました。トヨタですら、旧来のシステムを維持し続けることが困難だと言っているのです。
また失われた10年以降、年功序列の崩壊やリストラの嵐は、もう当然になってきました。
そうなのです。
僕らミレニアル世代は、働き出す前から、そのような昭和神話の崩壊を見てきました。
ですので、すでに企業は十分な「御恩」を従業員に施すことが難しくなっていると知っています。
また今の企業の意思決定ポジションにいる人たちのように十分な「御恩」を享受してきたわけでもありません。
そのような僕たち若者に対して、企業は従業員にこれまでと変わらない「奉公」を求める。
転勤の辞令に対して文句なく従っていたのは、黙って従えば一生会社が面倒を見てくれると言う背景があったからですよね。しかし、御恩の質・量が低下しているにも関わらず、そしてそれが明らかになっているにも関わらず、以前と変わらぬ奉公だけを求めるのは明らかにお門違いではないのか?と僕は考えます。
損をするのはどっち?
ここまで見てきた通り、若者の価値観も企業をとりまく環境も急変しています。そのような中で、企業はどうあるべきなのでしょうか。
企業にも従業員にも当然選択の自由がありますし、選択する際の戦略・戦術があります。そういった中でどういう行動を取るのが最良なのか。答えは、企業が社会共同体である限り、市場に求めるべきでしょう。
市場とは、自社がサービスを提供する市場であり、株式市場であり、そして転職市場です。それぞれの市場に対し、短期的・中長期的にどうありたいのかをゴールを描き、どうゴール達成に向けたアクションに落とし込んでいくかです。
さて、今回のカネカの問題、短期で見ると分かりやすいところでは株価が大幅に下落しています。
またこれだけ話題になると、若手の採用にもプラスの影響はないでしょうし、社内人材の離職率にも悪影響があるかもしれません。
ビジネス面ではBtoCですので不買運動のようなことはないでしょうが、仮に「くるみんマーク」が剥奪されでもしたら入札における優遇などもメリットを得られなくなります。
では中長期的に考えるとどうなのか。ポイントはこのような考え方が一過性のものなのか、大きなトレンドなのか。
今後、団塊世代の退職、ミレニアル世代が責任のあるポジションにつく、Z世代さらにはその下の世代が社会人になるという変化を考えると、少なくとも大きな流れとして昭和のシステムに戻るということはないと思います。
そう考えると、冒頭の主張に戻りますが、企業は少なくとももっと柔軟になるべきではないでしょうか。
転勤にしたって、転勤ウェルカムという人もいれば、嫌だという人もいるでしょう。しかも同一人物であっても、ライフイベントによってその考えは変わっていきます。
実際僕も、独身時代&ベンチャー勤務時代は、自ら手を挙げて関西支社立ち上げを行ったこともありました。
※その話はこちら
もっと多様に、長時間労働は構わないけどエリアは限定したい人、世界中どこにでも行きたい人、子供がいるから時短で働きたい男性、子育てが終わりまたバリバリ働きたい女性、マネージメントはしたくなくスペシャリストとして輝きたい人。そういう個々人の事情をくみ取り人材配置を行える会社の方が今の時代に則していると思いますし、また従業員の幸福度が高まることで、結果パフォーマンスが向上することだってあります。
実際、「幸せな社員は、創造性が3倍、生産性が1.3倍」という研究結果もあります。
(詳細は以下の「幸福学」というハーバードビジネスレビューEIシリーズに書かれています。こちらはそのうち書評を書きます)。
ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 幸福学 (ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ)
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以上の通り、古いシステムに固執するのは結局企業にとって損だと思います。
急な転勤を拒否して退職した妻も、今は外資系メーカー(日本拠点は1つで転勤はなし)に転職し、年収もアップしているみたいですし。一方妻のもとの会社は、それ以降も若手の離職率の高まりが問題になっているとか・・・
結局は、マネジメント層のおじさん世代が、自分たちの昭和のシステムにもとづく成功体験を捨てられるかどうか、という気がします。
なお最後に。
このように論じてきましたが、あえて古き良き日本のシステムを貫き通すでしたり、均一の人たちで固めるというのもそれはそれで戦略としてアリだとは思います。戦略とは差別化ですから。
ただ僕はそういう会社では働きたくはありませんけどね、という話です。
みなさんはどういう職場がお好きですか?
ではでは。