点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき

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とある外資系コンサルティングファームで働いているアラサーのつぶやきです

薬価3000万円のキムリアから考えるオペレーション変革の重要性

詳細は把握していないので見当違いなことを書いてしまっていたらすみません。

先日3349万3407円という高額な薬価が決まり有名になった白血病治療薬「キムリア」。今日から保険適用になるとのこと。

 

www.sankei.com

 

少し調べたら、この薬は患者さんに合わせた完全にオーダーメイドな薬のようですね。

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https://www.novartis.co.jp/sites/www.novartis.co.jp/files/CAR-T_Inforgraphic_J_R2_20180427_light.pdf

 

 一度患者さんから取り出した細胞をアメリカまで送り、細胞を遺伝子操作し培養し、患者さんの体内に戻すという治療方法。3000万円という値付けが高いのか安いのかは分かりませんが、このような薬であれば高額になるのも納得です。

 

これってオペレーションもめっちゃ変わるのでは!?

従来の薬の流通チャネルは、まずMRさんが医療従事者に自社の薬に関する情報提供を行います。製薬業界はMRさんは直接販売しないのが独特ですね。

かつては接待が有力なツールでしたが規制が厳しくなって接待禁止となり、最近ではMRさんが講演会を企画して、有力な先生に演者として地域の先生方に自社の薬の有用性を喋ってもらうことに注力しているようです。

そのようなMRさんの努力により医療従事者が有用性を感じたら発注をかけますが、その先は製薬メーカーではなくて卸の会社。メディバル、アルフレッサ、スズケン、東邦が有名所。医薬品卸会社は物流機能を担っており、製薬メーカーから仕入れた薬を全国の医療機関に届け、それにより病院や薬局の薬棚に製薬メーカーの薬が並びます。

 

というのがオーソドックスな製薬業界の流通のお話ですが、今回のキムリアは従来オペレーションだとまったく対応できないですよね。

そもそも病院から細胞を回収しなければなりませんし、調べたところマイナス120度で保管してアメリカまで送らなければならない。

そしてアメリカで培養されたものをまた病院まで送り届けるという、これまでの薬を詰めて卸に引き渡すだけのオペレーションと何もかもが異なります。

 

イノベーションはオペレーション変革を伴う

どんな業界でも、すでにコストダウンにしろ効率化にしろ商品開発にしろ、できることはやりきってその上でさらに工夫を凝らすまさにしのぎを削る戦いになっており、そこからさらに大きな差別化を行うには新しいイノベーションを起こすしかない。

よく聞く論調ですね。

そして今回のキムリアはまさにそれにあたり、だからこそ高額な薬価が設定されたと理解しています。

 

しかし、キムリアのようにイノベーションの結果は従来のオペレーションでは対応しきれず、オペレーションの変革、まったく新しいオペレーションを要求することもあるという点に僕は着目します。

いくら素晴らしい製品を開発しても、顧客まで届くチャネルが整わないと絵に描いた餅です。それどころかロジ周りでもたついていたら、類似研究を行なっている競合他社に先を越されてしまうかもしれません。

 

つまり、イノベーションだけでは実益を得られず、実益を得るためにはイノベーションによる変化が大きければ大きいほど、オペレーションの改革が必要になると言えるのではないでしょうか。

 

ただしこの変革は全て自社で行う必要性はなく、他社と競合したりアウトソースするのも手です。

実際キムリアの物流の一部はスズケンが独占的に受諾したそうです。またキムリアによる治療を行える施設もはじめは2〜3施設に限定するそうです。おそらく病院側での班出入、病院までの物流の問題があったのでしょう。

 

www.e-logit.com

 

今後、企業側の選択は、オペレーショナルな変革に対応していくために、コア・コンピテンシー以外のオペレーション部分をどんどんアウトソーシングし身軽になるか、または垂直統合していって自社でどのようなバリエーションにも対応できるように幅を保たせるかの二極化をしていくのではないかと考えます。

前者は、アウトソーシングしすぎていざという時の選択肢が狭まらないか、または適切なサードベンダーが見つかるかどうか、後者はいたずらに図体だけでかくならずにいかに俊敏性を確保するか、が課題でしょうか。

ただどちらにしても、柔軟性を発揮するために、既存のオペレーションの標準化・可視化は必須事項ですね。この点は、日本企業はまだまだ改善の余地が多いと考えています。

 

ではでは。