書評: データドリブン経営の最先端(ハーバードビジネスレビュー6月号を読んで)
今月号のハーバードビジネスレビューの特集「データドリブン経営」(以下6月号)を読んでみたので感想を投稿します。
データドリブン経営って数年前から言われていることですよね
経営ダッシュボードとか数年前から流行っていますしそういう支援をしたこともあるので、もともと抱いていた課題意識を踏まえながら読み進めてみました。
なおその課題意識とは、定着・活用の壁です。
なぜ定着できないのか。活用しきれないのか
各社興味もあってデータドリブンに移行しようとしてはいますが、なかなかやりきれない会社さんが多い印象があります。継続できないんですよね。
個人的には以下3つが原因だと睨んでいます。
- データを活用できる内部人材がおらず、変化に合わせた柔軟な対応が取れない
- 活用方法・プロセスの定義が不十分で、業務として浸透しない
- 部門単位の導入のため部分最適となり、全社方針と結びつかずどこかで頓挫する
結局は、データを活用するツールやダッシュボードなどを導入しても、戦略に基づいた組織や機能役割、業務プロセス、KPIなどの再定義+社員教育やマインドチェンジがなければ継続的な変革はできない、というのが僕の考えです。
データドリブン経営の最先端は?
さて、6月号では下記5つの論文が掲載されています。
- マッキンゼーのパートナー陣による「データドリブン経営の本質」
- ハーバードビジネスレビューの編集者による「データサイエンスと経営を結びつける方法」
- 楽天の役員による「データの力で隠れた価値を見つけ、形にする」
- 元大阪ガス現滋賀大学教授による「現場の能力を引き出すデータ分析の6つの型」
- カリフォルニア大学教授による「ピープルアナリティクスで人事戦略が変わる」
率直な感想としては、まずはデータドリブン経営によってできることは、おそらく従来からいろいろな人が思っていることの範疇を超えていないのだな、ということ。
ただし注目すべきは、精度や到達点、容易性、効率性などはどんどん高まってきているという事実。
6月号の中で楽天の役員さんは「データの本質とは、隠れた価値を見つけ、それを形にして実現すること」と述べられていたのですが、近年では「探しやすくなった」「形にしやすくなった」ということが大きな変化なのだと認識しました。
例えばEコマースのレコメンド。これまでも当然のようにレコメンドは行われてきたはずですが、データをフル活用することで楽天では従来の3〜4倍のコンバージョンを実現したそうですし、また楽天ではBIツールの活用により営業の効率化を実現し15%のコスト削減を達成したとのこと。大阪ガスではデータに基づいたコールセンター対応により、機器故障時の当日訪問完了率が8割から9割強に向上したそうです。
ただしその手の営業・マーケティングや製造・サプライチェーンなどのオペレーショナルの連続的な改善だけでなく、新規事業・イノベーション領域における非連続的な成長への貢献に対しても活用の余地があることは忘れてはならないポイントで、マッキンゼーでは新規事業案件に対しては、データを用いたインサイト取得、データ分析スペシャリストによる事例作成支援、といったことを短期間で行なっているとのことです。
でもやっぱり「人の課題」は相変わらずのようです
マッキンゼーの投稿によると、データドリブン経営がもたらすインパクトは大きい一方で、実現に向けて日本企業特有の4つの壁が邪魔をするケースが多いそうです。
曰く、
- データの壁
- リソースの壁
- 組織の壁
- マインドの壁
データの壁以外は、人関連の問題ですね。社内にリソースやケイパビリティがない、部門/機能横断的なデザインができない、旧来の経営から脱却できないetc. という感じでしょうか。
その壁を打ち破る方法としては、明確なビジョンを打ち立て、ロードマップをちゃんと描き、最初のパイロットは何がなんでも成功させた上で、従業員に対し投資して全社拡大すべし・・・、とマッキンゼー様は仰っておられますが、 「結局それってどうやって実現するの?」という感想が拭えませんね、正直なところ。
結局は愚直に真面目に行うのが正攻法なのかな
そんな中、面白かったのが楽天の取り組み。「営業マンの勉強会」「辛抱強い社内調整」「三木谷さんも参加する会議で成果共有(しかもその役員が喋るのではなく、担当部署の人に発表してもらう!)」「四半期に一度の役員層でのデータ活用に向けた討議」などなど、とても泥臭く愚直な取り組みが惜しみなく書かれており、とてもよいTipsとなっております。
こういう新しいことをやりきることができるかどうかは社風にも寄るとは思いますが、取り組みが社風を作り、社風が取り組みを後押しする、とも言えますので、強固なリーダーシップのもと推進できれば、楽天のような新しい会社/ITの会社ではなくとも、データドリブン経営にトランスフォーメーションしていくことは可能なのかなと率直に感じました。
そういう意味ですと、やはり小手先ではなくデータをダイナミックにどう活用していくかということは、事業や機能内で考えることではなく、戦略・経営マターなのだなということを再認識した次第であります。
といった形で、 従来からの変わらぬ課題感や表面的で手触り感の弱い方法論などがありつつも、生きた事例や、上記では書きませんでしたがユニコーン級にレアなデータアーティスト人材をチームでカバーするという視点、流行りのピープルアナリティクスの最前線など面白い論文もたたあり、楽しく読むことができました。
この分野に興味のある方は、一読の価値はあると思います。
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ではでは。