プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の勘所と活用方法
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)というビジネスフレームワークをご存知だろうか。
ボストンコンサルティングが提唱しGEが活用したことで非常に有名になったフレームワークなので、名前を聞いたことがある、またはどういうものなのか知っている、という方も多いのではないだろうか。
簡単に説明すると、主に複数事業を運営する企業が事業の選択と集中の意思決定の道具として使われるツールであり、縦軸「市場成長率」と横軸「相対的な市場シェア」のマトリックスで自社の事業を整理する方法である。
各事業は市場成長率の高低とシェアの高低の4マスのいずれかにプロットされることになるが(なおバブルチャートにして売り上げを合わせて見るケースが多い)その4マスは「花形」「金のなる木」「問題児」そして「負け犬」と呼ばれる。
それぞれの特徴は以下の通りである。
- 花形:市場の成長率が高く、自社のシェアも高い事業がプロットされる領域。市場が成長段階にあり、かつ自社の優位性が高いため社内外で「花形」として脚光を浴びる事業になる。一方で、成長性の高い市場であるため、シェアの維持・拡大に莫大な費用がかかり、キャッシュインが多い代わりにキャッシュアウトも多くなる
- 金のなる木:市場の成長率は低いものの、自社のシェアが高い事業がプロットされる領域。自社のシェアが高いためキャッシュは潤沢に流入し、かつ市場はすでに成熟段階にあるため新たな投資資金はそれほど必要ではなく、文字通りキャッシュが溜まる稼ぎ柱
- 問題児:市場の成長率は高いものの、自社のシェアは低い事業がプロットされる領域。シェアが低いのでキャッシュインが少ない一方で、市場が成長期にあるため多額の投資が求められる。新規事業は通常この領域からスタートする
- 負け犬:市場の成長率が低く、さらに自社のシェアも低い事業がプロットされる領域。キャッシュアウトも少ないが、多くのキャッシュインや成長も見込めず、早期撤退が第一の選択肢となる
さて本日はこのPPMを題材に3つ話をしたい。
PPMは使えない?
このPPMは使えない、という話をよく聞く。またフレームワークが教科書的に紹介されている書籍も増えPPMを知っているという人も多いかと思うのだが、どう使えばいいのか分からない、という人も多いのではないだろうか。
そのような意見の出る理由は、PPMを使うことが目的となっているからである。
PPMは、なにも特定の事業を「花形」「負け犬」と分類することが目的ではなく、分類した結果を踏まえて次のアクションを討議し、意思決定するためのツールである。この目的意識がないと、ただ単になんとなく分かっていた各事業部の立ち位置が明確化されただけで、何も変わらない。場合によっては「負け犬」と呼ばれた事業部の人たちのモチベーションが下がるだけ、という結果になってしまう。
なお求められる意思決定の質から考えると、PPMは事業部長/事業戦略マターではなく、全社戦略経営マターであることもポイントだ。負け犬の事業部から撤退するべきか、花形に投資するためにどこに事業の投資を抑えるべきか、という議論が求められるわけなので、「プロットされる側」が用いるツールではないという点も、PPMが誤解される理由の1つであろう(ただし後述するが、事業部無いでもPPMの考え方を活用することはできる)。
なおこの「フレームワークは目的ではない」ということは、PPMに限らずすべてのフレームワークに当てはまることである。興味のある方は以下も参照いただきたい。
「花形」であるがゆえの苦労と全社戦略の勘所
「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」と聞くと、誰しも「花形」になりたいと思うのでは無いだろうか?成長していてシェアもあり稼ぎも多く、会社を牽引するみんなの憧れの存在。事業部ではなく企業という側面から見ると、今であればメルカリとかLineとかTikTokを運営するByteDanceなどをイメージすると良いかと思う。そういう会社に転職して働きたい、と思う人も多いのでは無いだろうか。
しかし市場が成長し続けるということの注意点にも目を向けたい。市場が成長しているということは、企業にとっては市場の成長を上回る成長をしなければ自社のシェアが縮小してしまうということだ。裏を返すと、成長率の良し悪しは市場から判断する必要があるということだ。
例えば自社の成長率が25%だったとする。この数字を高いと見るか低いと見るか。答えは、「成長率だけだと分からない」だ。もしも市場成長率が5%であれば、自社の成長率25%は驚異的な成長率だ。しかしもしも市場成長率が50%だとすると、25%の成長率ではシェアが落ちているため、褒められた数値ではなくなってしまう。
この観点を持ってPPMを眺めると、ストーリーが生まれて、全社戦略が面白くなる。
全社戦略とはリソースをどう配分するかなので、もしもすべての事業が「花形」だとすると、すべての事業がキャッシュアウト優位なので事業を続けられなくなってしまうか、すべてに中途半端な投資を行いすべて「問題児」に戻ってしまう。なので、資金を外部調達するか、「花形」だとしても戦略的撤退や売却をするなどしなければならない。
ではキャッシュアウトの少ない「金のなる木」だけでよいかというとそれも間違いで、成長の止まった市場はどんどん市場が小さくなっていくので、大きな金のなる木にあぐらをかいていると、今はいいかもしれないが10年後20年後に苦しい展開となる(今の日本企業の多くが貧窮している理由の1つがこれだ)。
つまり企業がすべきことは、金のなる木で得た資金を花形に回してさらなるシェア拡大を狙う、または問題児に投資してそれを次の花形に育てることでり、これが全社戦略の建て方の基本なのだ。
なおこのあたりは実例交えての方がわかりやすいと思うので、興味のある方は以下のリンクを参照あれ。スライドのP18以降がキャノンのPPMが時代別に整理されており、各事業がどのように成長(または衰退)していったのかがよく分かると思う。
PPMの縦軸横軸は自由に決めてよい
ここまでの説明でPPMに興味を持ってもらえたら幸いなのだが、しかし上記に記載した通り、PPMは全社戦略用のフレームワークなので、一般のビジネスマンには関係のないフレームワークである。偉そうに言っているが、コンサルタント歴数年の私も、実際のプロジェクトでPPMを使ったことはまだない。
ではPPMは多くの人にとって不要なのかというと、これは非常にクリアーな考え方なので、使い方を工夫して、自分に関係のある領域に対して活用すればよい。
例えば事業を運営している側であれば、商品をプロットしてみてはどうだろうか。
ブロガーであれば、自分の記事をプロットしてみてはどうだろうか。
その際、縦軸横軸が「市場成長率」「相対的な市場シェア」である必要性はまったく無い。例えば特化ブログのブロガーなら、「ブログの趣旨との親和性」「独自性」の2軸に対し、記事ごとのPV数のバブルチャートを作成してみる、などどうであろうか。
それを眺めれば、自分のブログの特化している方向性が正しいのかどうか、どういう記事を書くべきなのかの意思決定を客観的に行えると思う。
軸は自由に作成すればいいが、似た性質の軸だと面白く無いのと、ある程度の客観性があること、そしてプロットした結果が意思決定に繋がるかどうかがポイントだ。
また、個人のスキルをプロットし、自己のキャリアを見つめるフレームワークを作成するのも面白いと思う。
自分が得意とすることが市場の中でも優位性があるのかどうかというのは、まさに市場成長率を事業の成長率と同じ話であるので、きっとよい気づきを得られることであろう。
私も、時間があるときに「自己のキャリア版PPM」を作成してみようと思う。
なおPPMに関しては以下の書籍がわかりやすいので、興味のある方は手にとてみてください。
ではでは。
世代間の一票の格差は最大3.7倍!若者よ、選挙に行こう!
日曜日は参議院選挙の投票日である。
みなに等しく付与される投票券だが、人口と投票率の違いにより、20代と60代とでは、3倍も票の重みに格差があるのはご存知だろうか。
3倍の差。これは選挙においては壊滅的な差をもたらす。シンプルに言えば、20代と60代だけを切り取ると、20代1人と60代3人で多数決をしているようなものだ。 どうあがいても、勝てるはずがない。
実際の数字を見てみよう
以下は 直近の国政選挙であるH29年の衆議院選挙での投票率と、最新の人口であるH30年6月の人口をもとに試算した、次回の参議院選挙でも同様の投票率だった場合の年齢別の投票数と、一番ボリュームのある65-69歳の投票数を「1」とした時の各年齢区分別の割合だ(年齢区分が違うので、18-19歳と80歳以上における比較は割愛)。
年齢層 | 投票率 | 人口 | 想定投票数 | 65-69歳比 |
18-19 | 41.51% | 2,316,400 | 961,538 | - |
20-24 | 30.74% | 5,990,000 | 1,841,326 | 0.27 |
25-29 | 36.90% | 5,868,000 | 2,165,292 | 0.32 |
30-34 | 42.46% | 6,659,000 | 2,827,411 | 0.42 |
35-39 | 46.78% | 7,448,000 | 3,484,174 | 0.52 |
40-44 | 51.91% | 8,844,000 | 4,590,920 | 0.68 |
45-49 | 55.17% | 9,558,000 | 5,273,149 | 0.78 |
50-54 | 61.12% | 8,299,000 | 5,072,349 | 0.75 |
55-59 | 65.51% | 7,553,000 | 4,947,970 | 0.74 |
60-64 | 70.33% | 7,517,000 | 5,286,706 | 0.79 |
65-69 | 73.42% | 9,166,000 | 6,729,677 | 1.00 |
70-74 | 74.16% | 8,279,000 | 6,139,706 | 0.91 |
75-79 | 70.26% | 6,991,000 | 4,911,877 | 0.73 |
80- | 46.83% | 11,037,000 | 5,168,627 | - |
※参照:年代別投票率はこちらから
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/
※参照:人口はこちらから
前回の国政選挙である衆議院選挙の投票率、60~64歳は70.33%、65~69歳は73.42%というかなり高い数値であるのに対し、25~29歳は36.90%、20~24歳にいたっては30.74%という壊滅的な低さだ。選挙に行くのは3人に1人未満、なんということだ。
そしてさらに誰もが知っている通り日本は超少子高齢化社会のため、年齢層によってそもそもの人数が異なる。投票率の高い高齢者層は人口が多く、投票率の低い20代は人口が少ない。それによって何が起こるかというと、著しい世代間の一票の格差だ。
タイトルや冒頭にも書いたが、明後日の選挙も前回同様の投票率の場合、65~69歳の投票数が約673万票なのに対し、 25~29歳は216万票、20~24歳は184万票しかない。それぞれ3.1倍と3.7倍も投票数が違うのだ!
その結果、高齢者は優遇され若者は忘れ去られる
ビジネスにおいては CRM(Customer Relationship Management)という「顧客との関係を管理するマネジメント手法」が存在する。
賛否あるかもしれないが、CRM がもたらす恩恵で一番経営インパクトがあるのは、「儲かる顧客とそうでない顧客」が分かることだと私は考えている。言い方を変えると、投資対効果の優れた顧客とそうでない顧客が分かる、ということだ。
例えば、売上高の多い顧客は自社にとって重要な顧客と一般的には考えられるかもしれないが、もしかしたら営業時や販売後のサポートに多くの工数を費やしていたり、そもそもその顧客は利益率の低い商品ばかりを買っていたりで、むしろ赤字の要因を作っている顧客であるかもしれない(そしてそういうケースはよくある)。
一方、目立ってはいないけれども、定期的にこちらからアプローチしなくとも、利益率の高い商品を購入し続けてくれている優良顧客もいるかもしれない。
そういったことが分かれば、どの顧客に力を割くべきか、どの顧客とは関係性を見直すべきか、という意思決定ができるようになる。
※興味のある方は、コンサルティングファームのアクセンチュアが出している以下の書籍を読んでみてください
- 作者: 村山徹,三谷宏治,アクセンチュア,CRMグループ,戦略グループ
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/07/01
- メディア: 単行本
- 購入: 5人 クリック: 39回
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さて、これを選挙の文脈で考えてみよう。
企業はなかなか顧客が見えていないものだのだが、選挙の投票においては、わざわざ細かい分析をするまでもなく、一番投資対効果が高いのは、高齢者だ。
若者に響くアピールをしたところで、パイも小さいし、投票する人も少ない。CRMで言えば「儲からない顧客」だ。一方高齢者は、パイも多いし、ほとんどの人が投票してくれる、まさに「儲かる顧客」だ。
目先の自分の当選ではなく国家百年の計を考える偉大な政治家であれば長い視点に立った政策を考えるかもしれない。しかし次の選挙に当選することだけを考える政治家のであれば、若者よりも、同じ努力をして3倍以上のリターンを見込める高齢者をターゲットにして、選挙戦を戦うであろう。
その結果として、「今の」年金支払いや介護、医療保険など、高齢者を優遇する施策が優遇され、待機児童問題や子供手当、学習支援など若者や子供のための施策は後回しにされても何も文句は言えない。財源は一定なわけであるから、それなら政治家は次の自分の当選に繋がりやすい顧客のためになるようにお金を使うであろう。
選挙に行っても何も変わらない、は嘘
選挙に行っても何も変わらない、だから行くだけ無駄だ、という意見をよく聞く。若者が選挙に行かない理由のトップはきっと「なんとなく」というものだと思うのだが、その根底にはこのような考えがあるのではないだろうか。
しかし、ここまでお読みいただいた方にはご納得いただけるかと思うのだが、選挙は(特に若者にとっては)投票して投票率を上げるだけでも十分に価値がある。むしろ「一人区で〇〇党が強いから、投票行っても行かなくても変わらないよ」と仰られる若い人のその行動自体が、若者の投票率を下げ、結果として自分の首を絞めることになっているのだ。「日本死ね」などとTwitterで呟いている暇があれば、周囲を誘ってみんなで選挙に行くべきだ。
確かに目の前の選挙結果そのものには確かに影響しないかもしれない。しかし、若者の投票率が高まれば、当選した政治家が「国民の誰をターゲットにするか」に間違いなく影響を与えることができる。
若者の投票率が高齢者並みに高くなれば、政治を大きく変えることができる。政治家の顔を今まで以上に若者に向けさせることができる。
そのためには、一人ひとりの一票を積み重ねるしかない。
みなさん、政治的な主義主張や信条、右なのか左なのか、ネトウヨなのかブサヨなのか、そんなことはぶっちゃけなんでも構わないので、とにかくまずは投票に行きましょう。
特に20代の方。必ず投票に行きましょう。
ではでは。
素して行い自らを得る:論語に学ぶその1
論語が好きな身として、前々から論語をテーマにしたブログを書きたいと思っていた。
新一万円札の顔になる渋沢栄一を引き合いに出すまでもないかもしれないが、論語を愛読する人は政治の世界でも経済の世界でも多く、またリーダー研修でも題材として使われもしており、21世紀の現代でも普遍的に読み継がれている実践的な書物である。
lightingup.hatenablog.com
私も好きな言葉がいくつもあり、ブログをはじめたのであれば紹介したいなと考えていた。しかしながら一方で、論語を語れる程の知識や経験をまだ持ち合わせていない身である。あくまで、論語がちょっと好きで、ちょっと知っているだけだ。
そのため、自分自身も論語を学びなおすという意味合いで、「論語に学ぶ」という副題を付けた。紹介したい論語の言葉はたくさんあるので、これからちょくちょくこのシリーズを続けていきたい。
素して行い自らを得る
さて初回は、「素行自得」という言葉。
これは私の座右の銘、モットーとしている言葉でもあり、自分では次の通り解釈している。
何があったとしても、どのような境遇にあったとしても、背伸びをするわけでもなく、他人を羨むわけでもなく、不平不満を言う訳でもなく、自分を見失わず、地に足をつけ、その場その場でふさわしい行動をとり最善を尽くしていく
さて、まずは実際の文章から見ていこう。
君子素其位而行、不願乎其外。素富貴、行乎富貴、素貧賤、行乎貧賤、素夷狄、行乎夷狄、素患難、行乎患難。君子無入而不自得焉。
君子その位(くらい)に素(そ)して行い、その外を願わず。富貴(ふうき)に素しては富貴に行い、貧賤(ひんせん)に素しては貧賤に行い、夷狄に素しては夷狄に行い、患難(かんなん)に素しては患難に行う。君子入るとして自得せざるなし。
キーワードは「素」と「自得」だ。
私が心の師と仰ぐ安岡正篤先生*1は、「素」について次のように語っている。
素は普通「もと」と読む。元来この文字の始まりは絵を描く白い絹、素絹(しろぎぬ)のことです。この素絹(しろぎぬ)がなければ表現のしようがない。つまり絵画という芸術を表現する生地(きじ)である。それから素地という意味になる。したがって素質、本質という意味になる。
いろいろな表現技術、あるいは着色などは、みな素絹(しろぎぬ)の上にやるわけである。そこで『論語』に「絵の事は素より後にす」という名高い言葉がある。一部の学者はこれを「素を後にす」と読んでいる。これは絵を描いていて、いろいろ色彩を施して最後の仕上げに白色を使うこと。これに対して、朱子は「素より後にす」とする。
素は素絹(しろぎぬ)のことで、着色即ち文化というものはその後で施すもの、素質が大事だと解している。私はこのほうがいいと考える。人を指導する立場にある人、いやしくもエリートたる者は「その位に素して行なう」、自分の立場に基づいて行なう。自分の立場から遊離しないで行なうものである。現実から遊離するのが一番いけない。
富貴に素しては富貴に行い、貧賤に素しては貧賤に行い、夷狄に素しては夷狄に行い、患難に素しては患難に行う。
つまり、富んでいようと貧していようとも、その境遇に見合った振る舞いを行う。夷狄=異民族、現代風に言えば異文化にあればその習慣に従い、苦しい時でもそれを受け入れて前向きに行動する。
そのように振舞うことがすなわち「自得」であり、君子は常に自分を見失わない。「君子入るとして自得せざるなし」だ。
自得に関しては、同じく安岡正篤は次のように述べている。
自得ということは自ら得る、自分で自分をつかむということだ。
人間は自得から出発しなければならん。
金がほしいとか、地位がほしいとか、そういうのはおよそ枝葉末節だ。根本的・本質的にいえば、人間はまず何を得るか、まず自己を得なければいかん。
本当の自分というものをつかまなければならん。
これが自得だ。
自分を理解するということ。自分を理解し、自主自立して、他者に影響されるのではなく、真の意味で自由に生きること。それこそが自得の目指す姿だ。
また論語には次のような言葉もある。
君子務本、本立而道生
君子は本を務む。本立ちて道生ず
これもなんて良い言葉なのか!
「本」、つまり根本的なもの・本質的なものを大切することが正しい道に繋がるということであり、その一番のよりどころになるのはまさに自分自身、「自得」ではないだろうか。
しかし、それがなかなか難しい。自得の難しさを、師はこのようにも表現している。
人間はいろんなものを失うけれども、本当に一番失いやすいのは自己である。
人は根本において自分をつかんでいない。
そこからあらゆる間違いが起こる。
人間はまず根本的に自ら自己を徹見する、把握する。
これがあらゆる哲学、宗教、道徳の根本問題である。
人間はとかく自分というものを忘れて人をうらやんだり、足元を見失うものだ。だから、自分の立場に基づいて実践することで、本当の自分、真の自己というものをつかまなければならない。
ちょうど先日自己認識に関して書かれた「Insight - いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」という書籍の書評を書いたが、自己認識、自得とは非常に難しいことだ。
西洋論的に考えると、自己認識できているかどうかは結果論、つまり結果KPI/遅行指標として求められるものであるので、何かしらの先行指標が必要になる。それがまさしくその時々の自分の立ち振る舞い、「素行」であるし、昨今のはやりの言葉でいえば、オーセンティックであること、自分らしく本物であるということではないだろうかと考える(こう見ると、結局のとろこ、人の本質は時代や洋の東西に寄らないな、と感じる)。
富貴に素しては富貴に行い、貧賤に素しては貧賤に行い、夷狄に素しては夷狄に行い、患難に素しては患難に行う。
端的に言えば、どんなときにも一所懸命であること。
何があったとしても、どのような境遇にあったとしても、背伸びをするわけでもなく、他人を羨むわけでもなく、不平不満を言う訳でもなく、自分を見失わず、地に足をつけ、その場その場でふさわしい行動をとり最善を尽くしていく。
そのように、私は生きたい。
ではでは。
セミナー/研修講師の心得とテクニック
職業柄人前で話をしたり会議のファシリテートをすることが多いのだが、それだけでなく、キャラも関係しているかもしれないが、私は社内外に対しセミナー/研修講師やワークショップ主催者として駆り出されて何かを伝えたり教えることがよくある。
経験値としては、規模感は数名〜30名程度で、講義形式で知識を教えるというよりも、ハンズオンで一緒に何かを行うという形式が多い。テーマはお客さんの業務プロセス変更に再してのトレーニングだったり、ユーザーサイドのちょっとしたテクノロジカルなツールの研修だったり、業務改善スキル習得のためのワークショップだったり。
「高度に専門的なことを教える」というよりも、「ちょっとだけ専門的なことや新しいことを」「実務で活用できるレベルになるまで習得してもらう」だったり、「今目の前で困っている課題に対して」「解決策を一緒に考え具体的なアクションプランに落とし込む」といった現場変革を得意としており、研修講師としてジョブチェンジしても食っていける程度の自信はある。
ただし研修スキルを体系的に今の会社で学んだ訳ではなく、ほぼ独学で身に着けてきたスキルであるので、自分自身の備忘録と暗黙知を知るために、講師を行う際に大事にしている考え方をいくつかまとめてみた。
急にセミナー講師を頼まれて困っていたり、これまで講師役をうまく演じることができなかった、という人には是非以下の投稿を取り入れてもらって、そしてその結果どうなったかを教えてもらいたい・・・。
研修講師の心構え
まずは心構えから。
「研修講師は何を求められているか」というと、参加者は自分の知らないことを知ったり、出来るようになること、行動のきっかけとなることを求めているのだと思う。
となると、参加者に対してたくさんのミートする「気づき」を促すことが講師の仕事であると理解している。
それには、ライブ感と双方向のコミュニケーションが必要だ。一方的に教えるのではなく、相手の理解度を見極めながら、伝わる努力をすることが求められる。
なお、相手が聞きたいと思っていることを話すためのテクニカルはこちらご参照あれ。
効果的な「伝え方」
資料作成やプレゼンでも同じだが、まず伝えたいメッセージはシンプルにするべき。そして、それを何度も何度も繰り返す。
具体的なフレーズとしては、例えば『本日皆様に必ず覚えて帰っていただきたいのは、AとBとCの3つです』と初めに宣言し、続く様々な説明の中で『これはAの実際の事例です』だとか『Bを活用するとこのようなこともできるようになります』だとか『ここまでのお話、Cの見方を変えただけだということに気づいたかたおられますか?』だとか述べ、繰り返し繰り返し大事なメッセージを刷り込んでいくのだ。
まあ関連付ける方法はなんでもいい。
大事な点は、伝えたいと思っているメッセージは話し手が思っている以上に聞き手の頭から抜け落ちていくものだ、という点を理解すること。そして、話し手は頭の中で「話しているトピックス」と「伝えたいメッセージ」が繋がっているのだが、聞き手は必ずしもそうではない、という点を理解すること。そこにギャップがあると、講師の独りよがりの研修になってしまうので注意が必要だ。
反対に言うと、その「伝わるのは難しい」ということを理解しながら、丁寧に丁寧に聞き手の理解度を確認しながら進めれば、それだけでかなり「伝わる」研修になるはずである。
※伝わりやすいスライドに関しては、こちら
納得感を高め、習得してもらうための方法
さて、伝わることが難しい話をしたが、さらに言えば「伝わること」と「できるようになること」はまた別の話。伝わったのちに「納得」してもらい、それによってできるように「習得」してもらわなければならない。
これを促すのが、研修講師やトレーナーの腕の見せどころではないだろうか。
私が心掛けていることは、簡単には答えを教えないことだ。
受講者に「考え方」を伝えたのちに、考えてもらい、悩んでもらってから、答えを教える。
失敗した場合には、失敗した理由を考えてもらってから、答えを教える。
出来たつもりの人には、見落としている点を指摘してから、再度教える。
終始、この調子だ。
コーチングの世界には「脳の空白の原則」という考え方がある。
人は分からないことがあると脳に一瞬の空白ができ、脳はそれを埋めようとする。この時に気づきが生まれるため、質問を用いて相手の脳に空白を作り出すことで、効果的な伝え方ができる
この考え方を利用し、とにかく参加者に考えてもらう。時には、あえて難しい質問や、その時点では気づかないであろう質問を投げかけたりする。
実際にしたことのある例だと、業務改善の手法をレクチャーした後にユースケースを出して参加者とどこに改善ポイントがあるのかディスカッションしたことがあるのだが、それは前提条件をひっくり返すとかなりインパクトのある業務改善を行えるケースになっており、視点を大きく変えない限りそのソリューションが思いつかない仕掛けになっていた。
(なお最初に『ゼロベースで考えることが大事』とメッセージングしておいて、『ほら、ゼロベースで考えるとこんなにも大きな効果があるのですよ』と付け加えることで、大事なメッセージの刷り込み効果も狙った仕掛けである)
ちょっと意地の悪いキャラになってしまうかもしれないが、参加者の様子や顔を見つつ、どんどん考えてもらって、悩んでもらって、失敗してもらって、、、そこから参加者に「はっ」と思ってもらえるメッセージを伝えることができれば、それは参加者に深く腹落ちし納得してもらい、定着・習得に繋がるのではないかと考えている。
一番大事なこと
そして最後に、私が一番大事にしていること。
それは、明るく元気よく、講師が楽しそうにする、ということである。
義務教育の学校からはじまり誰しもこれまで数多くの授業や研修、セミナーなどを受けてきたかと思うが、それらを思い返してもらいたい。つまらなそうな講師の授業で、ためになったり学びが多く、印象に残っているものはあるだろうか?きっと、ないと思う。
稀に「つまらない話で申し訳ありませんが~」と言い訳をする講師もいるが、正直、ありえないと思う。それを面白く(FunnyではなくInterestingの面白さ)伝えるのが、講師の務めだろと声を大にして主張したい。
別にウケる話をするとか、笑いを取るとか、そういうことではなく、興味を引く内容で、参加者にとって学びのある研修であれば、参加者は楽しむことができる。それを講師がつまらなそうにしていたらまったくの逆効果!それに講師がつまらなそうにしていたら、受講者が楽しめるわけがない!
ということで、空元気で構わないので、口角と目線と声のトーンを通常よりも少し高めて、明るく元気よくすること。
そして冒頭に「ライブ感と双方向のコミュニケーションが必要だ」と書いたが、そのライブ感・双方向コミュニケーション自体を講師が楽しむこと。
それができれば、きっと受講者に響く研修ができると考えている。
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とはいえ、文面だけで伝えるのは限度がありますね。
「小人数限定!外資系コンサルタントが教えるすぐに上達する研修講師スキル」と題して、4時間5千円交流会付き(定員10人)、とか。残念ながら弊社は副業禁止です笑
ではでは。
最新の SaaS(Software as a Service)事情
NewsPicで面白い記事を見つけた。
(Sponsored記事のため最後は求人広告やイベントに繋がるので、その点悪しからず)
「最新SaaS事情」と題され、インターネット経由で提供されるサービスであるSaaSをクライアントリレーションの文脈で「嘘のない、最高のビジネスモデル」と斬新な切り口で称し、解説している。
以下は記事のリード文の引用。
昨今よく耳にする「SaaS(Software as a Service)」。直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」、つまりは「インターネット経由で提供されるソフトウェア」のことだが、その真価を説明できる人間がどれほどいるだろう。
「SaaSは嘘のない、最高のビジネスモデル」と語るのは、急成長を遂げるSaaS企業のひとつであるFORCAS(ユーザベースグループ)代表の佐久間衡氏だ。
今や、ベンダーから提供されるSaaSの種類も徐々に増え、技術革新、利便性向上を背景として、一般企業でも多くのSaaSを利用するようになってきた。では、SaaS企業はどのような未来を目指し、またこのタイミングで私たちがSaaS企業でキャリアを積むことに、どんな可能性があるのか。最新のSaaS事情を紐解いていく。
拡大するクラウドサービスの利用率
私も新卒で入社した会社がSaaS型のクラウドサービスを運営する会社であったので、この領域には詳しいと自負していたが、一方で業界を離れて数年経つので最新の業界動向には疎くなっていた。そんな中、記事に出てきた「クラウドサービスの利用状況の推移」のグラフに、ここまで導入が進んでいるのかと、とても驚いた。
平成26年ではクラウドサービスを利用している企業が38.7%, 今後利用予定の企業が15.9%だったのに対し、30年には前者のクラウドを利用している企業の割合は58.7%まで伸びている。後者は14.1%なので、利用予定企業が利用を開始しただけでなく、これまで利用に否定的だった企業のマインドも変わりつつあるということだ。
実際、今後利用する予定がないorよく分からないという会社の合計値は45.3%から5年間で27.2%まで激減している。
また肌感覚としても、割と保守的に見える会社でも、意外と社内ファイル共有にクラウドストレージを使っていたり、当たり前のように顧客管理にクラウドサービスを利用していたりと、クラウドサービスの営業を行っていた前職時代よりも、クラウド利用率は一段と高まっていると感じている。
そもそも クラウドサービス / SaaS とは?
さて、クラウドとは、SaaSとは何かをすっ飛ばしていたが、簡単にそれらがどういうものか説明したい。
具体例から入ろう。このはてなブログも、いわば一種の SaaS である。ユーザーはサーバの契約・構築・運用は不要でいきなり利用できるし、セキュリティ対策や新機能追加も運営元が自動的に行ってくれる。ユーザーはただアカウントを作成すれば、サービスとしてソフトウェアを利用することができる。他に分かりやすい例であれば、Gmail / Yahoo!メール や DropBox、Evernote なども SaaS と呼ばれるものの一種である。
つまり、従来であれば高いお金をかけて自分たちで導入・構築しなければならず、高機能を有したソフトウェアは、個人であればスキルの高い人は自作するか、そうでない人は高いパッケージサービスを購入するかしかなかったし、法人であれば大企業しか持つことができなかった。それが、サブスクリプション方式で必要な分だけ利用できるようになったのがクラウドサービスであり、SaaSである。
なお、世界で最も成功している SaaS 運営企業であるセールの CEO マーク・ベニオフは「真のクラウドはソフトウェアの民主化だ」と述べている。クラウドサービス事業者が先行投資し構築したソフトウェアを割り勘で利用できるので、中小企業でも大企業並みのシステムをローコストで利用できるようになった。これがマークベニオフの言うところの「ソフトウェアの民主化」だと私は理解している。
こちら興味のある方には、是非下記のご一読いただきたい。
SaaS とは「嘘のないビジネスモデル」である
さて元記事の佐久間氏は、さらに面白い解釈を加えている。
SaaSを『クラウドサービス×サブスクリプション』と定義し、ソフトウェアを売って終わりではなく、むしろ顧客に継続して利用し続けてもらう必要があるため、「ユーザー(サービスを使う側)にとっての価値」と、「ベンダー(サービスを提供する側)にとっての価値」だと論じ、ベンダーとユーザーが長期的な関係を持ち、最適なサービスを一緒に作り続ける『嘘のないビジネスモデル』だと説明している。
この考え、元クラウド事業会社に在籍していた身としても私はおおいに同意するし、かつこれからの社会においてこそより光るビジネスモデルではないかと考える。
例えば、変化の激しい時代にどのようように対応していくかという外を向いた視点や、自社の存在意義をどのように社員に浸透させるかという中を向いた視点、どちらに対しても「嘘のないビジネスモデル」は大きなヒントになるのではないか。
以前オーセンティックリーダーシップについての記事を書いたが、
これからは個人だけでく、企業もオーセンティックであることが、顧客から選ばれ続けるための条件になるのではないかと思うし、そうなるために必要な取り組みは、SaaS企業として成功するための取り組みと一致するところが多いのではないかと感じる。
乗り越えるべき壁
一方で、記事の中では(ユーザー側ではなうビジネス事業主側が)SaaSビジネスモデルに移行することは難しいと記載している。
とはいえ、歴史の長い企業がSaaSに変革するのはかなり難しい。なぜなら、単なるビジネスモデルの変革ではなく、企業文化の変革を必要とするからだ。
「だからこそ、まずは多くの企業に、たくさんのSaaSを使ってほしい。実現したい未来をユーザーと共有して、一緒にサービスを作っていく醍醐味を体感してほしい」と佐久間氏。
これも同意だ。
クラウドサービス事業会社で営業をしていた際、自分たちは小さなスタートアップだったので直販以外に代理店(SIerや複合機や回線を販売している営業会社) 経由の営業も行っており、新規代理店の開拓や既存代理店の深耕も営業マンの大事なミッションであった。
が、代理店経由での販売を増やそうとしても、なかなか取り扱ってもらえない。これにはいくつか理由があるのだが、その1つとして、SaaSのようなサブスクリプション方式の商材が従来の営業スキームとマッチしていない、という背景があったと理解している。
例えば、パッケージで販売すると1回当たり100万円、しかしSaaSで売ると月額2万円にしかならない、、、とすると営業マンにSaaSを積極的に販売しようというインセンティブが働かないのである。そのような従来の評価方法やKPIだと、クラウドを売っていこうと大号令したとしても、現場は変わらないのである。
なお前職の営業成績の考え方は、売上を「ユーザーが1年間利用した場合の利用料」と定義しており、例えば月額2万円の契約であれば売上は24万円と社内計上していた。また契約翌年以降も利用し続けてもらえることが前提であったので、1年間の目標売上数は同規模の他の会社の営業マンよりも低く設定されていた。そうすることで、ショットで大きな金額の入るソフトウェアやハードを販売するのではなく、月額制のSaaSの販売の販売を推進できるようになっていた。
また相性良く本数を多く打ってくれた代理店さんは、インターネット回線などもともとランニングビジネスを展開している営業会社であったので、恐らく上記仮説は大きく外してはいないと思う。
ただしサブスクリプションモデルを推進する組織に変化していくにはもちろん営業の評価制度では足りず、例えばどのように既存顧客とリレーションを構築し続けるかという営業だけでなくサポートやマーケティングを巻き込んだ視点や、ユーザー体験をスピーディーに向上させていくアジャイル形式の採用という開発視点など、検討すべきことは多岐にわたると思う。1つ言えることは、これまでの機能重視のビジネスモデルでは通用せず、顧客中心のビジネスモデルへの展開が必要だ、ということだ。
正直、このような転換は図体の大きな会社ほど難しい。故に、ベンチャー企業であっても大企業を脅かす存在になれる余地が十分にあるし、主に大企業がクライアントであるコンサルティングファームのコンサルタントとしては、どのポイントをテコにしてクライアントを変革していくべきかということを考えなければならないなと感じている。
ちょっととりとめのない形ではあるが、この辺で。
ではでは。
少し追記
norihiko_matsumotoさんから以下コメントをいただいた。
最新の SaaS(Software as a Service)事情 - 点灯夫のように生きよう 〜 外資系コンサルタントの小さなつぶやき
- [参考になりました]
- [経営]
- [webサービス]
当社もSAAS扱ってます。ただ長い目で見るとオンプレがコストだけは安く見えるんですよね。 最初のキャンペーンで騙させるのですが、アドビのソフトを使うのに色々入ってしまって月額6000円ぐらい。買い切りの方が安い
2019/07/16 19:56
これはまさにクラウドの注意点だ思う。よく月々の支払いは安い、、、と謳われるが、よくよく比較してみると、そうでないこともままある。
なぜかというと、それまでの社内運用だと例えばセキュリティをそこまで重視していなかったり(=コストをかけていなかった)、ずっと古いシステムを使っていたのでそもそもコストがほぼ発生していなかったり、内部の人件費で賄えていたのでキャッシュアウトがなかったり、など理由は様々である。
よって、クライアントに導入をすすめるベンダーや、内部で稟議書を通そうとする担当者は、SaaSの利点をしっかりと理解しコストを上回るメリットを見せていかなければ導入まで至らないのでご注意あれ。
なお私は営業時代、以下の方法で必要性訴求していた。
ちなみに、norihiko_matsumotoさんのブログは、長い業界歴に裏付けされた良質な記事がとても多いのでお勧めです!
祇園祭に、京フレンチ
完全にただの食レポです(レポとも言えない、ただの感想・・・)。
三連休利用してコンチキチンを聞きに京都の祇園祭に。
(あまり良い写真撮れなかった)
ディナーは川床で風情を味わいたいと思いつつも雨がリスキーなので辞めておいて、せっかくなので美味しいものを食べたいと思い、知り合いが薦めてくれた「祇園びとら、」という京フレンチのお店にお邪魔してきた。
祇園の町屋などが並ぶ一角にひっそりと門を構える、小ぶりな隠れ家的なレストラン。
まずはアミューズから。
手前からキス、カンパチ、エビとつぶ貝、奥はマッシュルーム+イカ。旬の魚介を少しづつ楽しめる構成。和のお皿もいいね。
続いて前菜はオープンサンド。左手はマスで、右手は鳥胸肉。卵の中には小さなマスの卵の乗った小さなオムレツ。オープンサンドと卵を一緒に食べるととても心地よいハーモニーが。
続いては鰻と賀茂茄子のピューレ。夏らしい。
スープはかぼちゃのポタージュ。かなり濃厚でとても美味しかった。
お魚料理は太刀魚のポワレ。上に乗っているラタトゥイユが夏らしい。夏野菜のさっぱり感が太刀魚と合っていて、かなり気に入った。
お肉は京都地鶏の炭火焼。じっくりと蒸し焼きにされていて香ばしく、それでいて中は柔らかいお肉。これもとても美味しかった。
あと写真を撮り忘れたのだが、この後マッシュルームとバターの炊き込みご飯とおばんざい3品と、カラスミ、お漬物、お味噌汁がでてきたのだが、それがそこまでの料理の美味しさをすべて持っていくぐらい、めちゃめちゃ美味しかった笑
そして最期のデザートはトリュフの乗ったプリンという贅沢三昧。
京都なのと、フレンチのフルコースなので滅多に行けないとは思うが、いつかまたお邪魔したい。
関西圏の方、機会があれば是非どうぞ。
ちなみに上記の写真はすべて iPhone8 で撮ったもの。
スマホでこれだけ撮れるって、すごいよね。
ではでは。
書評:「Insight ー いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」が教えてくれたこと
巻末付録まで含めると500ページを超える大作「Insight ー いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」を読み終えたので感想を。
帯に書かれているキャッチコピーは、
『成功と失敗を左右する、最も重要なのに最も見逃されている要素、「自分を知る力」』
『仕事での成果や良好な人間関係、その鍵は「自己認識」。自分に対する思い込みを乗り越え、気づきを行動に変える方法とは?』
就活では「自己分析」をやらされるが、それ以外ではなかなか自分自身を振り返る場はないのではないか。しかし、誰しもが必要とは思っているであろう「自分を知る」ということ。
筆者は「自分を知る力=自己認識力」について次のように主張している。
「自己認識は21世紀のメタスキルだ」と言うまでにいやっや。本書を読み進めれば分かるように、現在の世界における成功にとって極めて重要な各所の力、心の知能指数、共感力、影響力、説得力、コミュニケーション力、協調力などは、すべて自己認識がもとになっている
本書では、このように重要な「自己認識」について、豊富な具体例とともに、自己認識とは何かと、自己認識力を高めるために何が必要か、どうすればよいのかをかなり詳しく掘り下げて解説している。
自分自身をよりよく、そして何よりも正しく知りたい、と思っている人にはオススメの一冊である。
さて、本書を読み進める中で特に目に止まったフレーズをいくつか紹介していきたい。
この世には二種類の人間が存在する。自己認識があると思い込んでいる人間と、実際に自己認識している人間だ
まず分厚い本書の第1章の長い本書の初っ端に書かれていた、次の指摘。これは痛快な指摘であるとともに、この一説によって、本書への興味がぐっと高まった。
私は最近ベストセラーの『EQ2.0 - 「心の知能指数」を高める66のテクニック』を読み、この10年間で心の知能指数が全体的に向上したと知って驚いた(EQは自分や他者の感情を探り、理解し、コントロールする能力と定義され、この指数が高い人の方が成功し、障害に直面しても耐性があり、ストレスに強く、関係を構築するのがうまいと言った傾向にあることが無数の研究で明らかになっている)。しかし組織心理学者として働く私の経験は、この発見にそぐうものではなかった。少なくとも見聞きした範囲では、EQの低さに端を発した問題が、近年減少どころか増加しているように感じていた。
(中略)
たしかにこの調査は実に50万人という膨大な人数を含むものだったが、彼の出した結論は調査した人びと本人の「自己評価に基づくもの」だった。この発見は言い方を変えて、自分が考える自分と、他人が見る自分の差異が大きくなってきているとする方が、遥かに現実に近い。つまり、EQの上昇に見えたものは、自己認識の低下を意味している可能性が高いのだ。
(中略)
結局のところ、この世には二種類の人間が存在する。自分には自己認識があると思い込んでいる人間と、実際に自己認識している人間だ。
自分自身を振り返ってみても考えさせられる一節だ。確かに、「自分は自己認識力が低い」と言う人はなかなかいないであろう。筆者の言う通り、自己認識があると思い込んでいる人か、本当に自己認識のある人しかいないのかもしれない。
内的自己認識と外的自己認識に相関関係はない
さてこの自己認識には2つの種類があるらしい。1つは内的自己認識、もう1つが外的自己認識だ。
- 内的自己認識:自分自身を名買うに理解する力のことを指す。それは自分の価値観、情熱、野望、理想とする環境、行動や思考パターン、リアクション、そして他者への影響に対する内的な理解のこと
- 外的自己認識:外の視点から自分を理解すること、つまり周りが自分をどう見ているかを知る力のこと
そしてこの2つについて、興味深く、鋭い洞察が書かれている。
内的自己認識ができる人は、外的自己認識もできていると想像するのは自然なことだ。しかし不思議なことに、私の研究でも他の研究でも、この2つにはなんの相関関係も見られないことが多かった。要するに、真の意味で自分を知るには、自分自身を知ると同時に、自分がどう見られているかを知る必要がある
これも非常にインパクトのあるメッセージではないだろうか。仮に「自分では自分のことを分かっている」と思っていたとしても、それが他者から見た自分とイコールだとは限らないということだ。
しかも上記の通り、自己認識できていると思い込んでいる人も多い状況なので、自分を正しく知り、かつ自分がどう見られているかも正しく知っている人は、いったいどれだけいるのだろうか。なお本書では、そのような稀有な人たちのことを「ユニコーン」と読んでいる。
自己認識の定義と、大切なこと
本書では、自己認識を次の通り定義し、
自己認識とは、自分自身と、他人からどう見られているかを理解しようとする意志とスキルのことだ。大人になってから自己認識に劇的な向上があったユニコーンたちは、自己認識に欠けた人々には見られない特徴的な7種類のインサイトを持ち合わせていることを発見した。ユニコーンたちは自身の「価値観」、「情熱」、「願望」、「フィット」、「パターン」、「リアクション」、「インパクト」を理解していた
本書ではこの7つの要素を「7つの柱」と呼んでいる。
- 価値観:自らを導く行動指針
- 情熱:愛を持って行うもの
- 願望:経験し、達成したいもの
- フィット:自分が幸せで存分に力を尽くすために必要な場所
- パターン:思考や、感情や、行動の一貫した傾向
- リアクション:自身の力量を物語る思考、感情、行動
- インパクト:周りの人への影響
いずれも、「なんとなく」大事だということは分かるかと思うし、例えば「自分の価値観は分かっている」「自分が何に情熱を持っているかは当然知っている」という人もいることだろう。
しかし筆者は、大事なことはこの7つの柱について、自分が知るだけでなく、周囲からどう見られているかも知ることだと説いている。
7つの柱すべてにとって、一番大切なのは内側の視点と外側の視点の両方を持つことだ。それができて初めて、自分自身のことや、自分がどう見られているかを真に理解することができる
いつインサイトを得ることができるのか
この2つのバランスを取ることはもちろん難しいが、その機会は実は生活の中にあふれているらしく、ユニコーンたちはその機会を巧みに捉えているそうだ。そのようなイベントは、アラームロックイベント(自分にとって重要な真実に目を開かせてくれる出来事)と呼ばれ、主に3つのタイプがある。
- 新しい役割/新しいルール:仕事や人生で新しい役割を求められたり、新しいルールに則ることを求められた時、私たちは安心した居心地の良い状態から一歩踏み出すことになり、いつも以上のことが求められるため、普段以上に自分を見つめることができる
- 激震:その出来事の大きさや重さから、自分が芯から揺るがされる出来事があった場合、その出来事はあまりにも衝撃が強いものであるため、私たちは自分自身についての真実に向き合わざるを得なくなる
- 日々のインサイト:驚くべきことに、ユニコーンたちが最も大きなインサイトを得たと報告した状況は、より日常的な場面である事の方が2倍も多かった。小耳に挟んだ会話や何気ない一言、さらには予期せぬ感謝の言葉などがきっかけで、突然自分の振る舞いを新たな観点から見ることがdけいるようになったという
1つ目と2つ目は、自己成長のために必要とよく言われる「コンフォートゾーンから抜け出す」という考え方と通じるところがあると感じる。
しかし、そのようなイベントも大事だが、3の通り、気づきを得ることができる人は、日常からより多くの気づきを得ているとのことだ。
さて、これをどう受け取るか。自分は日常は平凡すぎてそんな気づきなんてなかったと感じるのか、それとも自分の日々の観察力が足りなかったと感じるのか。あなたはどちらであろうか。
ちなみに、ここまででまだ冒頭から79ページまでをいくつかピックアップしたにすぎない笑。
このような感じで新しい知識や、既存の考え方を揺さぶられる(=それ自体がアラームロックイベントだ)記載に溢れている本書であるが、このペースでまとめていくと数万字になってしまうので、ここからは私が一番興味深かった内容を紹介したい。
具体的には、内的自己認識の方法論だ。
「考える」=「知る」ではない
就活の自己分析もそうだが、自分を知るために多くの人は自分がどんな人間か考えると思う。しかし筆者によると、自分について考えるという行為は、自分について知ることに何の関係もないそうだ。それどころか、内省に時間をかければかけるほど、自己認識が低下したケースもあるそうだ。
これは驚きの指摘である。内省が自己認識を生むという前提は迷信だと筆者は主張しているのである!
しかし厳密には、筆者は次の通り述べている。
内省の問題は、その行為自体に効果がないのではなく、多くの人がまったく間違った形で実践しているということだ
筆者はこの間違った考えを、次の通り4つに分類している。
1. 南京錠のかかった地下室という迷信(あるいは私たちが自分の無意識を掘り起こせない理由)
無意識とは心の奥深くに隠れているという考えだ。セラピストのカウンセリングを思い浮かべるといいだろう。フロイトは南京錠の鍵を見つければそれを知ることができると考えたが、最新の研究では、人の無意識は南京錠のかかった扉というよりも、密閉された保管庫に秘められているようなものとされているらしい。つまり、どんなに頑張って考えても、分からないそうだ。
ではどうすべきかと言うと、見つからない自分探しをするのではなく(往々に自分自分探しが目的となる。。。)、インサイトを得ることを目的にするのが良いそうだ。
内省を活用する第一原則は適切なアプローチを選択することが。内省というプロセスに重きを置くのではなく、インサイトを得ることに焦点を置いたアプローチだ。
セラピーで内省しすぎるのが危険なのは、自分を行き詰まらせるような物語を作り出してしまうからだ。言い換えれば、自分がどれほど辛いかを言葉にしようとするよりも、そこから何を学び、どう前進できるかに焦点を置くべきだということだ
これは含蓄のある教えではないだろうか。それが必要だと思って内省しすぎて塞ぎ込んでしまう。でもそれは本当は不要だと言っているのだ!
この一節には、正直かなり救われた。
2.なぜか「なぜ」を考える
これも、身を軽くしてくれる教えだ。一般的には、なぜを考えるのは非常に大事なことだと教えられる。自己分析でもそうだろう。しかし筆者は次のように主張している。
人がなぜと問うとき、つまり、自分の思考、感情、行動の原因を検証する時、一番簡単でもっともらしい答えを探してしまう。でも悲しいかな、いったん答えを見つけると、たいていそこで他の選択肢を見ることを止めてしまう。自分が見つけた答えが正しいか間違っているかを確認する方法など持っていないのに。
ではどうすればいいのか。筆者は非常にシンプルかつ便利なツールを紹介してくれている。「なぜ」ではなく「何」という問いを持つのが良いそうだ。
内的自己認識においては、「なぜ」ではなく「何」というシンプルなツールが、かなり大きな効果をもたらし得る。
「なぜ」の質問は自分を追い詰め、「何」の質問は自分の潜在的な可能性に目を向けさせてくれる。「なぜ」の質問はネガティヴな感情を湧き起こし、「何」の質問は好奇心を引き出してくれる。「なぜ」の質問は自分を過去に閉じ込め、「何」の質問はよりよい未来を作り出す手助けをしてくれる。
何か気分の変化が会った時は(=アラームロックイベントに遭遇した時は)「なぜこんな風に感じているのだろうか?」と考えるのではなく、「自分は今何を感じているのだろうか?」と問いかけ、自分自身の理解に務めるべきだという教えである。
この2つの教えは私自身にはこれまで考えていなかったような教えであり、大きな発見である。誇張して言えば、これまでの自分の常識がひっくり返されたようなものだ。
自分自身を省みる時は「なぜ」「なぜ」と考え通すのではなく、目的を持って、そして「何」を考える。これはすぐに実践していこうと思う。
ということで、かなりピンポイントな紹介であったが、私としては非常に大きな発見のあった一冊であった。どのポイントが琴線に触れるかは人それぞれだと思うが、興味を持った方はぜひ手にとってみてもらいたい。
insight(インサイト)――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力
- 作者: ターシャ・ユーリック,中竹竜二,樋口武志
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また強みを発見するには、フィードバック分析というドラッカーの教えと、ストレングスファインダーというWeb診断テストもおすすめなので、興味のある方は以下もご参照いただきたい。
ではでは。